様々な園児が育ち合う園内生活をデザイン 地域の顔になる園目指して

園舎の中心には大きな空間と特徴的なネット遊具。その両脇には、クラスルームが配置され、1階には乳児クラス、2階には幼児クラスが並んでいる
認定こども園への移行が全国各地で増えている中、園経営や管理体制、園舎建て替えなどを考える声も多く聞かれます。横浜市で初めて幼保一体型施設として創設した認定こども園を取材し、園舎の特色や保育方針について伺いました。

 園内の中心には大きな階段、吹き抜けの空間には子どもたちが遊べるネット遊具、各クラスルームには屋根裏のような小さな空間、さらに園庭をぐるっと囲むアスレチックなど、体を動かしたり、1人になってほっと一息ついたり、子どもたちのいろいろな感情が形になったような空間づくりが特徴的なのは、神奈川県横浜市にある(学)渡辺学園認定こども園ゆうゆうのもり幼保園です。同園では子どもの主体性を重んじ、自分から主張し、動き、気持ちを伝える力を身につけてほしいと考えています。

 同園は、2005年4月に開園。2003年、横浜市の待機児童問題解消を目的とした、幼保一体型「はまっ子幼保園」構想に賛同してのことでした。園舎は、環境デザイナーである、東京工業大学工学博士の仙田満氏が設計。「図書館や美術館など、子どもたちのための施設は、その町の顔になる」という仙田氏の言葉に惹かれ、渡邉園長は幼稚園や保育園という違いに関係なく、「横浜市の顔となるような子どものための施設」をつくることを決意しました。

様々な園児が育ち合う園内生活をデザイン 地域の顔になる園目指して
ネットの上で滑ったり跳んだり

 もちろん、当時そのような施設は横浜市で事例がなく、すべて手探りの状態でした。認定区分や家庭状況が異なれば、園児たちの降園時間も様々です。複雑な園児管理はシステム導入で解決。タイムカードを切るように、各園児の登降時間をデータ管理し、人の手間は最小限に、保育料を管理しています。また、2階のクラスルームに外との出入口があり、長時間保育で1階に移動する園児たちが他の園児の降園の様子を見ないように配慮されています。

 業務の管理体制の是正だけでなく、園児たちの気持ちを汲み取ることも大切にされ、園舎に反映されています。

自らが成長する生活や遊び

 開園当初は、奇抜な園舎のつくりを見た保護者たちから、「危ない」「保育者の目が行き届くのか?」など、不安の声がたくさん挙がったそうです。「初年度の入園児は、ほとんどが第一子で、他の子どもとの触れ合い方も知らないような子ばかり。園舎をつくり変えるよりも園児自身が育たなければ、根本的な問題は解決されない。案の定、姉妹園から3~5歳の園児を呼んで一緒に遊ばせたところ、1~2カ月後には遊び方が成長し、変わってきた。さらに翌年からは、むしろそういった生活をさせたいと保護者から支持されるようになった」と、渡邉園長は当時を振り返ります。「ちょっとした保護者の意見で〝つまらない園舎〟になる可能性があると、その経験を通して感じた。保護者の意見を鵜呑みにして“預かる施設”になるのではなく、子どもたちが“育ち合う施設”をつくることが大切」。子どもたちが園内生活を通じて学び、育ち合う保育体制や空間が、そこにありました。

執筆者
八木侑子

2・4面担当のパステルIT新聞編集スタッフ。ライティングだけでなくデザインも担当しています。

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