「平成30年に保育所保育指針が改訂され、乳幼児期における主体的な保育がより重視されるようになった。ひとり1人の成長に添うためにも、『保育者のゆとり』がまず必要だった」
そう語るのは、フォーマザー西立野保育園の辻󠄀智歌子園長です。園児約90名が在籍する同園は、約30名の保育者が勤務。しかし、午睡時の体動記録や日誌作成など、人手を越える膨大な事務業務に休憩が中々取れない日々が続いていました。
同園はこうした課題を解決するため、埼玉県が官民連携事業の一環で実施した「スマート保育園」モデル実証実験に応募。同事業は、乳幼児の子育てを支援するICTサービスを提供するユニファと連携し、保育者の業務負担軽減と保育の質向上を目指すもの。2019年9月から、同園を含む10の保育園でユニファが開発するベビーテックを試験導入しました。
取り入れたのは、午睡時の子どもの体動を検知・記録する「ルクミー午睡チェック」や額に数秒かざすだけで検温・記録ができる「ルクミー体温計」、自動撮影で子どもの自然な表情を記録する「ルクミーフォト」、そして登降園管理や連絡帳作成を手助けする「キッズリー」です。
ICT導入により、記録業務の考え方は一変。例えば午睡チェックは、園児の衣服にセンサー機器を取り付けるだけで、睡眠中の体の向きがタブレットに記録され、うつぶせが60秒間、体動の停止が20秒間続くと警告が鳴ります。記入の手間を省くと同時に、死亡事故率の高い午睡時における保育者の精神的な安心感につながっています。
辻󠄀園長は、「全員分の記入に2人で2時間かかっていた連絡帳も1人で1時間に短縮できた。自動撮影された園児の表情からも自らの保育の振り返りや共有ができる。休憩時間の確保や保育者の資質向上につながる」と効果を語りました。
ICTが家族と保育者をつなぐ
埼玉県内に8つの保育園と2施設を運営するフォーマザーは、「働くママを応援したい」という辻󠄀園長の想いがはじまりでした。
「今は女性も仕事で活躍できる時代。とはいえ、長時間子どもを預けているという負い目もあるはず。今回のICT導入はそうしたお母さんたちの子育て支援や安心感にもつながっている」と辻󠄀園長は続けます。
連絡帳はその一例。同園はその日の園児の様子を保護者が迎えにくる前に送信。保護者は子どもの様子が分かることから、「○○ちゃん、今日は○○したんだね。がんばったね」と声をかけることができ、子どもの喜びにもつながっています。
「保育者は子どもの成長の喜びを知ることで保育者になった喜びを感じる。お母さんたちはなおさら。保育者がゆとりを持つことで、家族とつながり、保育にかける私たちの気持ちがつながる。ICTがそのきっかけを与えてくれた」と教えてくれました。