教育ICTの専門家に訊く 幼児期に育みたい力とICTの活かし方

 2021年は、学校教育のデジタル化が動き出す「教育のICT元年」と呼ばれる年になりました。小中学校にICT機器が整備される中、幼小連携を見据える園ではどのようにICTを取り入れることが大切なのでしょうか? 幼児~小中高生のICT活用やその学習デザインを専門とし、園向け課内教室「ICTたいむ」の監修を手がける田中康平先生を取材しました。

幼小連携の課題とは?

 幼児教育では、子どもの育ちや学びは「遊び」の中に見られるというのが主な考え方です。しかし、小学校になると途端に、先生と子どもが授業をする側と受ける側になり、遊びも重要視されなくなる。先生1人で20人、30人の子どもたちを対応するために、「同じことを同じようにやってほしい」という想いが強くなります。そのため、卒園時にはかなりのことを自律的にできるようになっていた子どもたちも、自分から考えて動いたり新しい方法を生み出したり、そういったことを先生が認めて伸ばしてくれたりという経験が少なくなっていると思います。

 そうした中、小学校の学習指導要領も新しくなりました。主体的・対話的な深い学びを実践しようと全面実施が進められていますが、私はそのモデルとなる学びは、幼児期の子どもたちの姿にあると思っています。

 幼児期というのは、クリエイティブに考えて表現したいと思っている子が多く、難しくても楽しいと思えたり、主体的な気持ちを表に出せる場が用意されていれば自然と行動します。教える・教えられるという関係性ではなく、「つくりたい」「伝えたい」という気持ちの中にある良さを大人が受け止めることが大切です。

GIGAスクールで小中学校にICT機器も整備されました。ICTを教育に活かす上で大切なことは?

 「与えられるものは好きだけど自分から生み出すのは苦手」となると、パソコンが入ってきてもまず有効に活用できません。なによりパソコンを使って自分で表現する面白さを知らない子があまりにも多いのです。

 その背景にあるのが、スマホとゲーム利用の低年齢化です。日常的に触れるICT機器がスマホかゲーム機。ゲームは電源を入れたら音楽が流れ、「スタート」といったメッセージが表示される。得点やボーナスなど、演出も豊富です。

 でも本来、子どもたちは積み木やブロックのように、自分の想像力次第でいろいろな楽しみ方ができるもので遊ぶ力を持っています。パソコンもそうで、自分の頭の中にあるものをアウトプットするのに有力な道具であるはずです。最初に出会うICT機器はそういったクリエイティブなことができるものであってほしいと思っていました。

監修されている年長向け課内教室「ICTたいむ※」ではどのような工夫を?

提供:ICTたいむ開発者 田中康平先生

 幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿を深めるためのカリキュラムをデザインし、講師もそれを理解して声をかける・見守ることです。主体的なコミュニケーションやコラボレーション、クリエイティブを生み出しやすくするため、「まつ・みる・おうえんする」を合言葉に子どもたち同士の対話や協力し合うことを大切にしています。表面的にICTを導入するのではなく、学びにつながるカリキュラムがあって力を育める。そういう感覚が大切なのだと思います。

※年長園児を対象とした課内教室。指導員が園を訪問し、ICTを活用した絵本づくりやプログラミングなどを行う

専門家の声 田中 康平 氏(教育ICTデザイナー)
田中 康平 氏(教育ICTデザイナー)

幼児~小中高生のICT活用やその学習デザインを専門とし、園向け課内教室「ICTたいむ」のカリキュラム開発・監修を手がける。

同カリキュラムと10の姿の詳しい関係は、ICTスクールNEL 東京校公式Webサイトにて
執筆者
服部由実

編集長。企画・取材を担当。IT企業の広報部門に所属し、社外広報や採用活動に取り組んでいます。

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