地域に広がる循環型の幼稚園 感性育む園の次の展望

 在園児や地域の子どもたちを対象に園庭を開放する学校法人久光学園志のぶ幼稚園(東京都)。地域の多様なステークホルダーが集う場には、子どもも大人も楽しめる工夫が満載! 地域づくりの循環拠点として、園が開かれています。

この記事のポイント

  • 園周辺の自然が減少。センス・オブ・ワンダーをテーマに原体験を保証する園庭をオープン
  • 地域循環の拠点として園庭開放! 子どもと地域のステークホルダーが出会う場づくり
  • 幼稚園は誰のもの? 自らも幼稚園の主体と思える人を増やす

 

心動く発見の場所 自然が希少な今こそ

 春になると淡黄の花を咲かすモッコウバラのアーチをくぐった先に広がるのは、志のぶ幼稚園の第2園庭「志のぶセンス・オブ・ワンダーランド」。神秘さや不思議さに目を見はる感性(センス・オブ・ワンダー)を育むことをコンセプトとした園庭で、四季折々の自然や小さな生命を五感で感じることができます。

第2園庭「志のぶセンス・オブ・ワンダーランド」

 背景にあったのは、園周辺の自然の減少。1936年に園舎を移転した当時は辺り一面に麦畑や原っぱが広がっていた平町も、時代の流れとともに開発が進み、周辺は住宅地に。歴代園長の願いでもあった自然に親しむことで得られる原体験は困難になりました。

 「神秘や崇高、純真、調和、自然にはこうした教えが無数に存在する。先代の思いを継承し、子どもの原体験を保証する場所をつくりたかった」

 そう話すのは、4代目の岡秀樹園長です。現在は菜園・植栽活動や虫眼鏡を使った探検、草花あそびなど、第1園庭だけではできなかった体験を日常に取り入れたり、保育後の交流の場として親子に開放したりしています。

植栽活動で自身の好きなアロマティカスの香りを子どもたちに伝える岡園長(左)

 2024年からは地域の園芸店・植物時間のファシリテートのもと、植栽活動を実施。取材に訪れた5月は、ラベンダーやカレープラント、タイム、ミントなどのハーブ苗や同園の誕生花であるカンパニュラ、レモンの木などを植えました。

 「葉からカレーの匂いがするよ。触って嗅いでごらん?」「アゲハ蝶はレモンの木が大好き。葉の裏に卵を産み付けるんだよ」。ガーデナーの半田淳さんの声かけに子どもたちは目の前の草花や生き物に夢中です。

カレープラントの葉の匂いを確かめる真剣な眼差し!

 主任の渡部清美先生は、「五感で感じ、『伝えたい』という感情が咄嗟に生まれたときに、自分の今までの体験や言葉で懸命に伝えようとする。そこに共感が起き、子どもの中で社会ができあがっていく。そして不思議が生まれ、見どころに気づいていく」と子どもの心の動きをふりかえります。同時に、そこに寄り添う半田さんたちの植物に対する深いまなざしや愛情が子どもたちに与える影響の大きさを感じているといいます。

植物時間・半田さんの植物への深い造詣と愛情が子どもたちにも自然と波及
子どもたちが植えた個性さまざまなハーブ苗

園=地域循環の拠点 園庭開放への思い

 季節ごとに景色が変わる園庭や子どもの豊かな反応を目の当たりにする中、岡園長らは園庭のない子どもたちにも場を共有しようと、園庭開放に注力。年6回の園庭開放「志のぶわいわいパーク」を実施しています。

 同園が描くのは、園を拠点とした2つの循環です。一つは未就園児から在園児、卒園児、そして成人後と長い時間をかけて1人の子どもが園と関わりを持つ「時間軸の循環」、もう一つは園で出会った子どもと地域の大人が園外の様々な場所で再会し交流を繰り返していく「地域循環」。岡園長は「地域のステークホルダーと子どもたちが出会うことは、子どもの感性や可能性、そして持続可能な地域づくりにおいて大きな意味を持つ」といいます。

地域の循環拠点としての園の役割を語る岡園長

 園庭は、幼稚園・保育所などの所属に関係なく地域の子どもと大人に広く開放。卒園児や保護者もボランティア参加し、毎回多様な地域の方と連携。来場者は毎回200名を超えます。

一生ものの経験を伝える場所に

 同園に集う大人は、地域のステークホルダーや自らの“好き”を究めるプロフェッショナル。園庭開放ではプレイワーカーの協力のもと、廃材を活用した秘密基地をつくったり、奥多摩産材のカンナくずプールや丸太を小さく加工したカスタネット「丸太ネット」をつくって演奏したり、万博パビリオン風にバルーンに絵本作家が巨大な地球を描き、子どもたちと未来に持っていきたいものを描いたりと、子どものわくわくを引き出す工夫が光ります。

園庭開放「志のぶわいわいパーク」で絵本作家と巨大バルーンづくり

 「子どもの可能性はどこにきっかけがあるかわからない。その経験が一生ものになる子もいる。多様な主体との出会いを大切にしたい」と岡園長。最近の関心は、子どもと関わる楽しさを知り、自らも幼稚園の主体と思える人を増やすことなのだそう。「幼稚園は誰のもの?」と問いかける岡園長は、多様な主体とともに地域に開く園づくりを進めています。

学校法人久光学園志のぶ幼稚園

東京都目黒区平町にある1911年創立の歴史ある幼稚園。持続可能な地域の循環拠点として、多様な主体との連携に注力。園が休みの週末はフランス語学校として場を提供し、人が集う“眠らない幼稚園”を目指す。

学校法人久光学園志のぶ幼稚園
執筆者
服部由実

2021年より4年間、編集長を務め、現在はIT企業の広報部門に所属する立場から企画・取材を担当。

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