持続可能な園づくり 財務・支出・収入の視点から園経営の現状把握

2023年7月に開催した保育博ウエストで登壇する安岡さん。園運営に必要な保育者数を考えるセミナーは満席! 参加者の関心の高さが窺えました
 国の公表によると、2022年の出生数は過去最少の約77万人を記録。少子化で園児が減少する中、いかに持続可能な園をつくるか。園のコンサルタントとして園経営を支援する安岡知子さんに伺いました。

この記事のポイント

  • 2022年の出生数が過去最少の約77万人を記録。重視される持続可能な園経営の視点
  • 持続可能な園経営のポイント ①財務 ②支出 ③収入
  • 働く保育者の納得感が保育の質に影響する。現状の把握から分析の一歩を



 2023年、国が公表した調査によると、2022年の出生数は過去最少の約77万人と初の80万人割れを記録しました。さらに、未就学児の育児をする女性は521万人。5年前に比べ、出生数は17.6万人、未就学児の育児をする女性は108.3万人減少しました。こうした全国的な園児減少が予測される社会背景に対し、「持続可能な園経営の視点を持つ大切さ」を呼びかけているのが、園のコンサルタントの安岡知子さん(株式会社福祉総研)です。

園のコンサルタント 安岡知子さん

 持続可能な園経営のポイントとして安岡さんが挙げたのは、「財務」「支出(特に支出の大きい人件費)」「収入」から経営状況を把握すること。「現状把握が持続可能な園経営を支える一歩となる」と安岡さんはいいます。

 まず財務で確認すべきものは、収益性や短期の安全性、長期の持続性、合理性などです。決算書の数字をそのまま見るのではなく、人件費率や流動比率、園児/職員1人あたりが生み出す年間収益額などの比較可能な数字に置き換え、経年比較すること(最低3年間)で傾向を分析します。安岡さんは、自身が講師を務める研修会でも、園経営者と決算書から園の経営現状を紐解く勉強会を行っているそうです。

 次に支出。特に〝園の最大支出となる人件費(中でも職員数の多い保育者数)が適正であるか〟が持続的な園経営を支えます。算出するのは、「在籍の園児数に対して必要な保育者数」。子どもに直接関わる保育の仕事と書類作成や会議などのノンコンタクトタイムの業務にかかる時間を合算し、年間で必要な時間を算出します。その総時間を保育者1人あたりの年間労働時間数で割ることで必要な保育者数を把握するという計算方法です。

 保育にかかる時間の把握ついて安岡さんは、「1時間ごとに必要な保育者数を算出する」としています。園児ごとに登園・降園のタイミングが異なり、時間帯によって在籍する園児数が変動する保育現場だからこそ、1時間あたりの保育者数を算出することが重要だといいます。

 そして、現状把握の最後の視点として挙げられたのは「収入」です。そのポイントは、収入の増減に直結する園児数・保育者数に対して収入の最大化を図ること。全国的に園児減少が課題となる今、多くの園では園児の減少に合わせて利用定員の区分の変更を検討しています。利用定員によって取得できる加算も園経営を支える収入要素のひとつ。安岡さんは、「利用定員を検討する際は収入の試算が必須」と念押ししました。

現状の把握から分析がはじまる

 園のコンサルタントとして園経営を支援しはじめる前、安岡さんは約7年半、園に勤め、管理職として設立まもない園の運営に奔走していたそうです。

 園に深く関わる中で安岡さんが感じたのは、保育の世界は人によるところが大きいということ。「働く保育者が納得感がないまま働いたりすることがそのまま保育の質に影響する。先生たちが笑顔で、自分たちの能力を発揮できる環境をつくりたい」と社労士資格を取得することを決めました。
 「園経営に魔法はない。まずは現状を把握するところから分析がはじまる」。一貫して持続的な園とそこで働く職員の未来を願う安岡さんの言葉が、試行錯誤の一歩を踏み出す大切さを強く教えてくれます。

株式会社福祉総研 安岡 知子さん

特定社会保険労務士。子ども・子育て支援制度や教育・保育業界にも精通し、園経営・園運営の支援やコンサルティングを実施。
https://fukushi-soken.com/

『それぞれの園のための就業規則』 安岡知子 著(フレーベル館)

執筆者
服部由実

編集長。企画・取材を担当。IT企業の広報部門に所属し、社外広報や採用活動に取り組んでいます。

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