学校法人七松学園認定こども園七松幼稚園がICTに積極的に取り組み始めたのは、コロナ前の2019年12月のこと。それまでの紙文化を見直そうと、教育機関向けクラウドサービス「Google for Education」を導入しました。同サービスは、Googleが提供するメールアプリや文書作成アプリ、ビデオ会議アプリなどを無料で利用できるというもの。同園は、保育日誌や週案、ヒヤリハットなどを、表計算ソフト「Googleスプレッドシート」で作成。クラウド上で作成・保存・共同編集ができ、ファイル共有もURLを共有するだけ。学園全体(系列園と)の情報共有には、SNS「サイボウズ」を活用し、緊急事態宣言下の対応や分散出勤、感染予防のための取り決めなどを、非常勤職員も含めて手軽に共有できるようにしました。
業務効率化だけじゃない ICTを「保育教材」に
さらに、業務効率化だけでなく、保育教材としてもICTを活用。電池で起動するデジタルカメラを使って植物や生き物を撮影・観察記録を作成したり、子どもが描いた絵を書画カメラで投影して劇をしたりと、子どもの想像性を育むような使い方をしていたそう。
2020年度にはそうした取り組みが評価され、文科省の「令和2年度幼児教育の教育課題に対応した指導方法等充実調査研究」を受託しました。
これまでのICT活動に加えて、各教室にiPadを設置。インターネットを使った情報収集や写真・動画の撮影、さらにはビデオ会議ツールを保育活動にも活用しています。
使うツールは、園内会議でも活用している「Google Meet」。調理をする手元の様子を子どもたちに伝えようと、調理スペースの背後にカメラ(ノートパソコン)を設置。ビデオコードにアクセスすれば、各教室に設置した液晶モニターやiPadから見られるようにしました。
「子どもたち”深く見てみたい”という活動をどう見せるか。例えば、生き物が羽化・脱皮する様子や植物のつるが伸びていく過程をタイムラプスで見せる。”生きている”という実感を自分がいま飼育栽培しているもので感じられる。ICTは、自分が直接体験したものの知識を広げるアイデアとして使えると思う」
そう教えてくれたのは、園長の亀山秀郎先生。保育教材の1つとしてICTを捉えている同園は、コロナ禍に始めた動画配信も「保育動画」であることを重視。表現遊びや歌・お遊戯など、園で行ったことを家庭で振り返ったり、園の雰囲気やクラス担任の人柄を伝えたりするような動画を中心に配信しました。
「子どもの様子を配信することも考えたが、400人園児がいると、誰1人もらさずに動画を作成するのは困難。『動画は保育教材』『子どもの様子は直接園内で』と切り分けて考えている」と亀山園長。
さらに3学期には、自分で動画をつくるという試みにも挑戦。人形劇のような動きのある動画を作成するアプリ「Puppet Pals HD Director’s Pass」を使い、遊具の使い方を紹介する動画づくりに年長児がチャレンジしました。
まず動画の背景となる遊具の全景とキャストとなる自分たちの写真をiPadで撮影。写真をアプリに取り込み、自分たちの写真は背景写真に合わせてトリミング。「登る」「滑る」などの動作がわかるようにアニメーションを加えます。あとは説明用の音声を録音するのみ。動画アプリを活かしてつくった動画は、翌年入園した子どもたちが遊具の使い方を学ぶのに活用したそうです。
「幼児教育で大切なのは、自分が直接体験して取り組んだことを表現したり発表したりすること。”自分劇”のような取り組みに今後も力を入れていきたい」と教えてくれました。
実践園の声 七松幼稚園(兵庫県尼崎市)
「出会いに感謝し、笑顔で「和」を広げる」が理念。ICTを活かした情報共有や動画配信、研修に多数取り組む。