無償化・少子化
問われる保育の質
今年のテーマは「経営者も、保育者も、保護者も、子どもも含めて 育ち合う園のつくりかた」。昨今の園は、ICT導入補助金の影響で園のICT導入が急かされる一方、本来のICT活用につながっていない状態が散見されます。
「園児それぞれに合った教育・保育活動の実践に向けて、保育者がより専門性を持って知恵を出し合える環境をつくる。そのためのヒントをICT活用やコミュニケーション、採用戦略から得られる場にしたい」。これが、小紙がフォーラムに込めた想いです。
第1講座「無償化・少子化で問われる保育の質」には、株式会社日本総合研究所で子ども・女性に関わる政策について調査研究を行う池本美香氏が登壇。保育を取り巻く環境変化について、保育無償化による長時間労働化や保育士不足の深刻化、少子化による園児獲得競争の激化や保育ニーズの減少などを挙げ、「教育格差は広がっている。人材や財源も限られる中での保育の質改善が必要」と強調しました。
さらに、その手段としてニュージーランドにおけるICT活用事例を紹介。子どもや保育者に合った園選び、保護者とのコミュニケーション、空気や音などの環境改善、データに基づく政策提言など、幅広い対象に向けたICT活用を例に、「重要なのは保育士不足、事務負担軽減のためのICT化ではなく、保育の質向上のためのICT化」と本来のあり方を語りました。
白熱の第2講座
若手保育者のホンネ 専門家が紐解く
第2講座「若手保育者のホンネから紐解く これからの園づくり」では、宮城学院女子大学 磯部裕子教授とアソブロック株式会社 代表取締役 団遊氏が登壇しました。講座では、保育観や仕事における葛藤、喜びを語る若手保育者5名の動画を投影。「毎年同じようなことの繰り返し。今の保育が更新されていない」という若手保育者の声に対し、磯部先生は「良い保育をするための時間の使い方が保育者として生きる上でのアイデンティティに影響を与えている」と分析。団氏も日々の保育における意味を園長らが伝承する重要性を語りました。
さらに、団氏は働きがいについて、「人が育つには、3つの『キョウ』が必要。仕事に対して『熱狂』でき、できることを再現するのではなく少し背伸びしなければならない『逆境』や組織の外へ『越境』し、知識をアップグレードするような環境づくりが大切」と続け、来場者から深い共感を呼んでいました。
保育者が成長できる職場づくり
国立人口問題研究所が発表した人口予測によると、2019年は約92万人だった国内出生数は2030年には約81万人、2042年には約73万人、2056年には約60万人に減少することが予測されています。
第3講座「『人を育てることができる先生』を採用できる職場づくり」に登壇したファンが集まる学園実現会 代表 石田敦志氏はそうした予測を受け、「園児数が減少することを前提とした過去に縛られない園づくり」の必要性を提言。園の価値観を明確にし、園を一緒につくり上げていく人を採用する。採用方法もマーケティングを活用し、採用専用のWebサイトや採用見込み者が参加できる企画(インターン型アルバイト会員登録)が重要と語りました。
「将来、自動化された機械に人間が依存するようになったとき、園で育てなくてはならないことは何か。園の目的、目的を果たすための目標、目標を達成するための行動を組織全体で再認識することが必要」
素敵な人間関係の中で仕事に充足感を感じている大人の姿を園児たちが見られる園。育ち合う園の1つのあり方が見えてきました。
開催を終えて
ご参加くださった皆様、ありがとうございました。本フォーラムでは、ICT活用、現役保育者のホンネ共有、採用戦略の3つの視点から、「みんなが育ち合う園づくり」について考える時間を企画いたしました。ご参加された時間だけでなく、そこでの気づきなどを、是非園内の先生方と一緒にお話してみてください。また、新しい視点での発見や、自園で何をすべきかのアクションが導き出せるはずです。今回の機会が、皆様の将来にとって実りあるものとなりますように…。