ICTを活用した絵本づくりに挑戦
「自ら考えて行動するこども」「どんなこともがんばるこども」「理解し合うあたたかいこども」を教育目標に掲げる緑幼稚園は、年長園児を対象とした課内教室「ICTたいむ」を試験導入しました。ICTたいむは、3C(コミュニケーション・コラボレーション・クリエイティブ)の力を育むことを目的に、教育ICTデザイナー・田中康平氏を中心に開発されたカリキュラム。インストラクターが園に訪問し、ICTを活用した絵本づくりやプログラミングなどを行います。特徴は、「協働的な創作活動」であること。クラス全員またはグループで1台のiPadを共有し、「まつ・みる・おうえんする」を合言葉に協力して1つの作品をつくり上げます。この日は、アプリを活用した絵本づくりを実施。3人1グループとなり、絵を描いたり、文字を入れたりして、1つの絵本を完成させていきます。
個の技能・技術ではなく、コミュニケーション能力を育む
「園にICT活動を取り入れるにあたって、個の技能・技術を教えるのみであれば、それは幼児教育ではない。『やりたい』『できない』『わからない』といった葛藤体験も含めてコミュニケーションをとることを大事にしている」
そう語るのは、河原宏子園長。東京都でもプログラミング教育の推進が教育課題として提示される中、ICT活動の取り組みは同園にとっても初の試みでした。当初は、園児が溶け込めるか、数カ月と間が空いてしまったときに内容を覚えていられるか不安もあったよう。しかし、誰1人戸惑うことなく意欲的に取り組み、忘れてしまったことも友だち同士で教えあったり、先生に聞いたりして主体的に探究する姿がありました。
担任の角田先生は、「園児たちは生まれながらにしてスマホやタブレットに親しんでいる。会話も弾み、合言葉も活かされ、素直に協力し合うことができている」と手ごたえを実感。河原園長も「主体性を育む日々の保育の成果を感じ取れ、子どものいい面をたくさん見ることができた」と喜びを教えてくれました。制作した絵本は、印刷したものを園児自ら製本し、発表予定。協力・創作・発表がそろったICTたいむは、より豊かな表現力や創造力を育む「未来型の課内教室」として期待されています。
幼児期の終わりまでに育って欲しい10の姿との関連性
そもそものICTたいむのはじまりは2012年。タブレット端末やスマートフォンが急速に普及し、子どもたちが触れる機会が増えたことを受け、その姿に危機感を抱いたことがきっかけでした。
ゲームや動画視聴など、受動的・消費的な活用ではなく、子ども同士が協力して表現や創作を楽しむような活動を促そうと、2014年に「ICTたいむ」が開発されました。
その中心である教育ICTデザイナー・田中氏は、園におけるICTたいむの活用について、「ICTたいむの3Cカリキュラム(コラボレーション、コミュニケーション、クリエイティブ)と10の姿はとても相性が良く、様々な部分の育ちが期待できる」と語ります。
この日の緑幼稚園の園児たちにも見られたように、「まつ・みる・おうえんする」の合言葉は「協同性」「道徳・規範意識の芽生え」の育ちを促し、グループでの創作は「豊かな感性と表現」、創作中の話し合いや発表は「言葉による伝え合い」、さらにタングラム(図形遊び)やプログラミングでは「思考力の芽生え」「数量・図形・文字等への関心・感覚」が育ち合う姿を見ることができます。
「導入された園の先生方と実践的な研究を重ね毎年改善しながら、未来社会に対応したこれからの幼児教育を提案していきたい」と抱負を語ってくださいました。