「子どもたちのために」が発想の原点 保育現場に即したIT

園のシンボルであるログハウス。園庭にはヒメリンゴ、ブドウ、柿など実のなる木がいっぱい。見守ってきた実を自分の手で収穫するのが子どもたちの楽しみ
川崎ふたば幼稚園(神奈川県川崎市)の小川哲也園長は、みずからを「パソコンおたく」と称するほど、以前からITに精通しています。20年前にはパソコンを保育に導入し、話題になりました。そんな小川園長に最近の関心事を伺いました。

 「幼稚園は社会の縮図であるべき」。そう考える小川園長は、子どもたちの豊かな成長のために役立つ新しいものを積極的に取り入れてきました。保育室にパソコンを置いたのもそのひとつ。しかし、「新しいおもちゃ」を囲む園児を目の当たりにし、パソコンは好奇心を刺激する楽しい道具の反面、室内に拘束するというマイナス面もありました。あれから20年。遊び場に持ち込んで自由に楽しめそうなiPadの可能性に注目しています。

 職員に望むのは自主的な行動。これはIT利用においても同様です。園では作品展で創作過程を披露するために写真を撮り溜めることにしました。一眼レフカメラを2台購入し、データは共有パソコンに集約することにしたところ、普段から個人のデジカメを持ち歩き、シャッターチャンスを狙う先生が増えました。

 また、お遊戯会に使う曲の長さなどを調整する編集作業は、主事の先生が『Sound it』という音楽編集ソフトで代行してくれます。しかし、作業を見ていて「私にもできますか?」と身を乗り出す先生もいるとのこと。「職員の4割が『iPhone』を持つ時代。個人でもITに親しむことで、それを保育に活かそうという発想も出てくる。ITリテラシーの高まりが先生の引き出しを増やすことにもなる」。と小川園長は語ります。

子どもの人間関係を重視

 そんな小川園長の関心事は「子どもたちの人間関係づくり」。「園長とお弁当を食べる会」の時、自分の主張はできても友だちの話を聞けない子どもが増えていると感じてていました。そこで、人間関係づくりを重視した取り組みを続け、その成果が見えてきました。

 例えば、年長さんの劇あそびでは、テーマこそ先生が誘導をしますが、配役、セリフ、舞台道具など、できるだけ子どもたちが意見を出し合って決めることにしました。すると、用意されたセリフや動きを自分だけがうまくできればよいのではなく、劇全体をみんなで盛り上げ、誰もが最後まで舞台に注目するようになりました。

 去年の運動会でのこと。全員リレーに車いすで臨むA君は、練習に励んで園庭を一周できるほどになりました。しかし、本番は小学校の運動場。一周の距離が長くなるとわかって不安なA君に、B君が自分の走る距離を伸ばして彼の負担を減らす提案をしたのです。「仲間だから協力しあうのが当たり前じゃん」。彼の言葉に感じられる思いやりや連帯感が、A君はもちろんチームメートの心に届きました。こうした日々の経験が子どもたちを逞しく成長させています。「ある日突然、コップの水が溢れるように」。子どもの表情や言動が変わる瞬間を、小川園長はこう表現します。

 「目的はあくまで保育。入園してくる子どもたちから社会の変化を読み取り、ITに限らず必要なものを選ぶだけ」。揺るがぬ想い、そして日進月歩するITの世界に日々刺激される発想力で、時代に応じた柔軟な保育環境づくりをめざす小川園長です。

執筆者
鈴木あゆみ

パステルIT新聞編集長。特集の企画・ライティングほか、紙面全体の編集を担当しています。

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