編集部ふりかえりノート
志のぶ幼稚園とはじめるオンライン異文化交流(2/3)

執筆者
パステルIT新聞

「園づくり・人づくりを考える」をテーマに園に役立つITツールやサービスを紹介するIT専門紙。2008年創刊。全国の幼稚園・保育園・こども園と幼稚園教諭・保育者養成校、あわせて11,000施設以上にお届けしています。

このノートは、2021年7月14日に開催した「パステルわくわく座談会① オンライン異文化交流 取材アフタートーク」の内容をまとめたものです。ゲストは、オンライン異文化交流に取り組み、世界OMEP「ESDアワード2021」を受賞した志のぶ幼稚園の岡秀樹園長です。先生のことばを丁寧に文字おこししました。

そもそも「ESD」ってなに?

編集部・服部(以下、服部)前回の記事では、こうした異文化交流の取り組みが「ESD」につながるというお話がありました。岡先生は、オンラインでの異文化交流の取り組みで世界OMEP「ESDアワード2021」を受賞されたわけですが、わたしも取材のときに伺った言葉で、ハッとさせられましたものがありました。

「英語を学ぶにしても、〝何のために学ぶのか〟。『この子たちとお話をしたい』『この子たちにお手紙を書きたい』。そういった原点は〝人と人とのつながり〟にあるものだと思う。それがESDの実践や将来的にグローバル市民の育成につながっていく」
パステルIT新聞2021年7月号より)

オンラインで出会う海外の子どもたちとの交流やつながり。その体験そのものが原点となって、まさに持続可能な育ち・行動につながっていく。そう思うと、原体験を大切にする園にとって、ESDというのは本来特別なものではないのかもしれないと思いました。

志のぶ幼稚園・岡園長(以下、岡園長):そうですね。「ESD」という言葉はだいぶ聞き慣れてきた言葉ではあるんですが、まだまだ浸透していない言葉だと思います。Education for Sustainable Development、つまり「持続可能な開発のための教育」ということで、日本語に訳しても難しいですよね。幼稚園には幼稚園教育要領、保育園には保育所保育指針というものがありますが、「持続可能な開発」「持続可能な社会」という言葉は小中高の教育要領に比べてほとんど出てこない。次に改訂されるのはだいぶ先です。小学校以降の先生の常識と幼稚園教諭・保育者の常識がイコールではないのではないかということが、そもそもの問題意識としてありました。

服部:小学校の学習指導要領で「ESD」という言葉が16回登場するのに対して、幼稚園の教育要領は1回なんですね。驚きでした。

岡園長:今は国連が行政やNPO、メディア、企業、教育機関に働きかけたことによって、「SDGs」という言葉がだいぶ取り上げられるようになりましたが、もともとESDというのはSDGsの目標4「質の高い教育をみんなに(2030年までに持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和の文化及び非暴力の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする)」の部分で語られることが多かった考え方です。でも今では、この目標4だけでなく17の目標すべての中心にESDがあるという考え方に変わってきています。

岡先生のスライドより引用

レイチェル・カーソン『沈黙の春』、ローマクラブ『成長の限界』
そして12歳少女の伝説のスピーチ

岡園長ただ、SDGsというのは2030年まで(の目標)ですよね。「ESDという考え方は普遍的なテーマである」というのは押さえておいた方がいいと思っています。自分的な表現をすると、「子どもを人間としてみた ESDの経緯」を知ること。子どもとESDがどう関係しているのか、という話です。

服部:子どもを人間としてみる?

岡園長まず、1960年代にレイチェル・カーソンが『沈黙の春』というベストセラーを出しました。環境破壊への警鐘を鳴らしたわけです。まさに現代のSDGsにつながる原点になるようなもの。ここで注目すべきところは、このレイチェル・カーソンは『センス・オブ・ワンダー』の著者であること。『センス・オブ・ワンダー』というのは不思議さや神秘さに目をみはる感性を育むというように、子どもにとって大切な道しるべを示している本で、幼児教育に大きな影響を与えている本です。

服部:『沈黙の春』は教科書にも載っていた本です。『センス・オブ・ワンダー』はその『沈黙の春』が背景になっていたんですね。

岡園長:はい。70年代になると、ローマクラブが『成長の限界』という本を発表しました。人口や環境、食糧問題を絡めて、このまま開発を進めると地球の存続が危ういと警鐘を鳴らした本です。その際、ローマクラブの設立者のペッチェイさんは、「自分がこのような仕事にとりかかった最大の理由は、子どもたちのためにつぎの世代の社会を少しでも住みよいものにしたいという念願から」と語っています。「持続可能な」という考え方につながるものだと思います。そして次に、セヴァン・カリス・スズキさんが、1992年にリオデジャネイロで行われた地球サミットで伝説のスピーチをするわけです。この12歳の少女が、世界を沈黙させるスピーチを行った。

岡園長:子ども自身が世界に対して持続可能な社会を訴えた。セヴァン・スズキさんは今も世界で活躍されていますし、2003年に発行された著書『あなたが世界を変える日』(学陽書房)もおすすめなので、まだ読まれたことのない方はチェックしてみてください。

服部:自分が見過ごしてきてしまったようなことを突きつけられるようなスピーチでした。

岡園長:レイチェル・カーソンの『沈黙の春』、ローマクラブの『成長の限界』、セヴァン・スズキさんのスピーチと、こうした流れを踏襲してようやくSDGsの前身となるMDGsが登場するわけです。

MDGsからSDGsへ
援助する立ち位置から「自国の問題」に

岡園長:MDGs(Millennium Development Goals)は、2000年から2015年までの間の世界の目標。主に南北の格差是正、貧困撲滅ということで、日本は援助する側としての立ち位置でした。しかし2000年以降、日本の子どもの相対的貧困率は高まり、2014年のOECDによる調査ではOECD加盟国34か国中10番目に高く、OECDの平均を上回りました。

岡園長:そして子ども食堂。2012年に大田区で初となる子ども食堂が誕生しましたが、2012年から2020年までの4年間で16倍、今では5000か所以上にのぼっているんですね。さらに、労働基準法に違反するような児童労働問題が日本国内でも報告されるようになりました。決して遠い国の話ではない。子どもを取り巻く社会環境が変わってきている。MDGsのときの日本の立ち位置は援助する側でしたが、2015年からのSDGsではいよいよ自国の問題になってきたわけです。

服部:文脈を振り返ってみても、世界で警鐘され続けている。次の世代の社会を少しでも住みよいものにする。子どもと関わる大人が持ち続けなくちゃいけない意識ですね。

岡園長:2030年以降のことも考えると、このESDの実現というのは今だけを見つめるのではなく、やはり過去があって、今があって、未来を考える。今の子どもたちは22世紀を生きる子どもたちなので、その子どもたちが生きる将来がどのような世界になっているかを考えながら、日々の保育に全力を注ぐことが重要だと思っています。あとでも触れますけど、レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』の中では、子どもだけではなくて、子どものそばにいる大人の大切さについても触れられているんです。子どもを見過ごさないような環境づくりや声かけ、私たちにできることはたくさんある。

服部:ありがとうございます!次の記事では、園でESDを実践していく上でのコツや岡先生が大切にされていることについて教えていただきたいと思っています。

岡園長:はい。ESDの実践というのは、今回のわくわくオンライン以外にもさまざまな形があります。「これじゃなきゃいけない」というものはなく、いろんな形がある。いろんな地域、いろんな園の文化があるので、それに応じた実践があっていいということをお話したいと思います。

学校法人久光学園志のぶ幼稚園(東京都目黒区)

都立大学駅・大岡山駅近くにある、創立明治44年から100年以上続く歴史ある幼稚園。2020年夏より、オンライン異文化交流に取り組み、コロナ禍もグローバルな感性を育めるとして世界OMEP「ESDアワード2021」を受賞。
https://www.shinobu-kg.com/

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