食事やあそび、健康状態など毎日の教育・保育活動における園児の様子を保護者に伝達する手段は確立しているとして、災害時における連絡手段には、どのような備えがあるでしょうか。
幼保連携型認定こども園町田自然幼稚園と認定こども園正和幼稚園を運営する(学)正和学園(東京都町田市)は、災害時における連絡手段やコミュニケーションツールを見直し、園児の安否を確保し、保護者と連絡を取れるようにすることを目指した携帯防災マニュアルを、防災教育・啓発活動を専門とするNPO法人プラス・アーツと協働で開発しました。本格的な幼児用の防災マニュアルの開発は新しい試みです。
マニュアルの形状は蛇腹折り。園児用は常に携帯できることを想定して名刺サイズ、保護者用は保管場所からすぐに見つけられることを想定してパスポートサイズに仕上げました。
園児用のマニュアルは、園児が使うというよりも、災害時に保護者とはぐれて迷っている園児を見つけた大人が、園児の情報をきちんと受け取り、保護者と引き合わせることを目的としたツールです。園や保護者の連絡先のほか、園や保護者と連絡がつかなかったときの連絡先も確認できるようになっており、災害時にすぐに連絡がつかないことが想定されたつくりになっています。
さらには、止血方法や骨折時の応急処置の仕方といった災害時の対処方法、園児が持つアレルギー情報も確認でき、園児の安全も確保できるようにしています。「ぼく/わたしの好きな歌」や手遊びの仕方、そして保護者が園児に向けてメッセージを書くことができるフリースペースも設けられており、園児の心のケアにつながる内容も盛り込まれています。園児の安全確保とともに、園児が災害時で心細いときでも安心できるようにという両面から園児をサポートすることができます。
保護者用のマニュアルには、園の連絡先はもちろんのこと、災害時のお迎えについて、災害用伝言ダイヤルや災害用伝言板の使い方が書かれています。様々な連絡手段がマニュアルに集約されてていることで、災害時に落ち着いて考えられない状況でも行動に移しやすいと期待されています。
携帯防災マニュアルは、同学園の理事長や園長、主任などの管理職の立場、保育者という現場の立場、広報担当者といった運営の立場の関係者同士で意見を出し合いました。さらに、防災に関する知恵や知識を発信し、全国200カ所以上に防災意識を啓発するワークショップの展開や、20以上の企業や団体に防災マニュアルの提供実績がある、プラス・アーツのノウハウが取り入れられました。
保護者と一緒に問題解消
開発段階から保護者にアンケートを取ったり、リリース後もただ渡すだけでなく保護者向けの説明会を開催したりと、実用レベルに落とし込めるよう、携帯防災マニュアルは運用面も含めて常に改善し、「本当に使われるマニュアル」に育て上げています。保護者から「園児に携帯させるには、個人情報の漏洩が心配」という意見が挙がった際には、運用の体制を見直し、当初園児が日常から防災マニュアルを携帯するように想定していたところを、通常は園内でファイル保管し、災害時には保育者が持ち出して園児の首にかけるという運用に切り替えました。
10月3日、町田自然幼稚園の2~5歳の園児260名と保育者37名が参加した防災訓練では、見直した運用体制は問題なくシミュレーションできたようです。保護者からは、「アンケートの時点では、疑問に感じる点や不安な点もあったが、物を手にとってみて、必要性を感じた」「災害時の対応をしっかりしてくれる園だと安心感が持てた」などの声が挙がっています。さらに、小学生の兄弟がいる保護者からは「幼稚園に通っている子どもだけでなく、小学生の子どもにも持たせたい」というリクエストも寄せられました。
同学園とプラス・アーツともに、今後は他園でもこの携帯防災マニュアルが活用されていくことを熱望しています。「地震大国である日本で、地震をいつものこととして捉えて備えることが日本に住むマナーだと考えている。防災訓練など防災に対する取り組みを軽視しないでほしい」と語るのは、プラス・アーツ東京事務所長の小倉丈佳氏です。同学園の広報担当である檜森美佳氏は、「改めて情報を一つにまとめることが大事。この取り組みをきっかけに、全国の園児たちの安全が確保できればうれしい」と語ります。携帯防災マニュアルの導入についてのお問い合わせは、同学園(office@seiwagakuen.ed.jp)まで。