編集部ふりかえりノート
志のぶ幼稚園とはじめるオンライン異文化交流(3/3)

執筆者
パステルIT新聞

「園づくり・人づくりを考える」をテーマに園に役立つITツールやサービスを紹介するIT専門紙。2008年創刊。全国の幼稚園・保育園・こども園と幼稚園教諭・保育者養成校、あわせて11,000施設以上にお届けしています。

このノートは、2021年7月14日に開催した「パステルわくわく座談会① オンライン異文化交流 取材アフタートーク」の内容をまとめたものです。ゲストは、オンライン異文化交流に取り組み、世界OMEP「ESDアワード2021」を受賞した志のぶ幼稚園の岡秀樹園長です。先生のことばを丁寧に文字おこししました。

オンライン異文化交流だけじゃない
志のぶ幼稚園のESD実践例

編集部・服部(以下、服部)前回の記事では、ESDの文脈を振り返るなかで、子どもたちが生きる将来がどのような世界になっているかを考えながら、日々の保育を行うことが重要というお話がありました。最後は、園でESDを実践していく際に大切にしたいことを、志のぶ幼稚園さんの取り組みを例に考えていきたいと思います。

志のぶ幼稚園・岡園長(以下、岡園長):はい。前回の記事の終わりでも、「これじゃなきゃいけない」という決まりはなく、いろんな地域・園の文化に応じた実践があるというお話をしました。そうしたことを前提に、今回はひとつの例として、志のぶ幼稚園の実践を紹介させていただきます。今日紹介させていただくのは、次の4つです。

  • ソマティック実践(皮膚接触コミュニケーション)
  • わくわくオンライン(異文化交流)
  • センス・オブ・ワンダー
  • 地域との連携

服部:ESDの手法は、オンライン異文化交流だけじゃないんですね。

岡園長:はい。これらすべて、ESDにつながると思っていて。まず最初のソマティック実践は、これは学術的には「身体学」と呼ばれる学問で、「身体技法」の総称です。代表的なものであれば、合気道やヨガ、リトミック、忍術なんかもソマティックに含まれます。うちの園で取り組んだのは、その中の「ビオダンサ」と呼ばれるワークです。

岡園長:ビオダンサというのはスペイン語で「生命のダンス」を意味するんですが、チリの医療人類学者のロランド・T・アラネーダさんがはじめたものです。「言語を超えた、ユニバーサルで有機的な音楽」と「自由な身体の動き」、「グループになってのダンス」を通して、生命力、セクシュアリティ、創造性、情愛、超越性を回復させていくというものなんですが、ダンス自体に完成形や到達点がないんです。幼稚園のお遊戯や行事だと、どうしても完成形を求めてしまったりするんですが、そうじゃない。自由度が高く、子どもが本来持っている感性を自然に表現することができる。「型にはめる」という側面が幼児教育にあるとするならば、それを補完する要素がビオダンサにはあるのではないかと注目しました。

生命のダンス「ビオダンサ」
完成形も到達点もない 皮膚接触コミュニケーション

岡園長:例えば「サークル」。大きな円になって、リズムにのりながら手をつないで回る。子どもと保護者、保育者が輪になって、友だちのお父さん・お母さんと手をつないだり、保育者と保護者が手をつないだりします。他にも、音楽に合わせて次々に円をつくる「リズミック・シンクロナイゼーション」や、親子でペアになって目を閉じた相手をガイドをする「Guiding Angel(導く天使)」を行いました。親は、幼かったはずの子どもの身体だけを頼りに歩きます。ダンスといっても、産まれる前に同期していた母親の心臓の音を聞くというような「ふれあい」もあります。

岡園長:ビオダンサの優れた点は、「多元的な(1人、2人、3人、それ以上、全員との間の)コミュニケーションを体験」できるということです。「地域」というものを考えたときに、地域を形成する主な人間関係は、①子どもと親、②子ども同士、③子どもと保育者、④親同士、⑤子どもと他児の親、⑥親と保育者という関係が考えられます。幼児期のこうした皮膚接触コミュニケーションが「他者と地域とのつながり」につながって、持続可能な地域を形成する大切な要素となる。

服部:友だちのお母さんやお父さんと手をつなぐという経験は意外とないものですもんね。

岡園長:そう。ただ、これから皮膚接触コミュニケーションを続けていこうと思っていたときに、コロナによる未曾有のパンデミックによって身体接触が難しい状況になりました。そこではじめたのが、今回のオンライン異文化交流です。

制限の多いコロナ禍こそ「わくわく」を
わくわくオンラインで異文化交流

岡園長:2020年4月にYouTube番組「志のぶちゃんねる」をはじめていたので、その発展形として異文化交流オンラインプログラム「わくわくオンライン」を開催しました。「わくわく」というのは、水などが地中から出てくるさま「湧く」から生まれた擬態語。期待や喜びで落ち着かない様子を表すものです。これをいま、すごく大事にしようと思っています。「わくわく」は子どもが事象や対象に対し期待し、そして喜びとなり、感情が湧いてくる。コロナ禍で制限が多いなか、子どもたちと一緒に「わくわく」する日々を過ごすことが大切。「わくわく」は未来志向のポジティブな魔法の言葉で、持続可能な人生を送るうえで大切なキーワードだと思っています。

服部:「子どもたちにわくわくする体験をさせてあげたい」というのが、わくわくオンラインの原点でしたもんね。

センス・オブ・ワンダー
豊かな感性を育む園庭づくり

岡園長:次に「センス・オブ・ワンダー」。神秘さや不思議さに目を見はる感性ですが、著書に書かれている次の1文が僕は大好きです。

「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないと固く信じています。
(レイチェル・カーソン 著/上遠恵子 訳/『センス・オブ・ワンダー』,新潮社,1996)

ただ、それだけを言っているのではなく、感じたあとに「興味をもって知る」ということも同時に言っているんです。志のぶ幼稚園では、センス・オブ・ワンダーをコンセプトにした園庭づくりをはじめて、2018年11月に第2園庭「志のぶセンス・オブ・ワンダーランド」をオープンしました。こちらが園庭の写真です。

岡園長:第2園庭ができるまでは、保育者はできる限りリスクを削りたいという意見もありましたが、園長としてはできる限り挑戦・探求する場所をつくりたいという相違がありました。今では、菜園・植栽活動をしたり、虫めがねを使っての探検ごっこをしたりなど、第1園庭ではできなかった自然体験を日常に取り入れることができている。保育後も開放しているので、子ども同士だけでなく親同士の交流の場にもつながっています。保育者にとっても、菜園を中心に子どもとの協働作業が増え、興味関心の幅が広がるなど変化が起きています。

服部:わあ、わくわくする園庭ですね~。

岡園長:虫眼鏡をもって園庭を探検することもあるんです。自分ひとりでじっくり、いろんなことと向き合う時間というのも大切で。子どもの目というのはすごくて、大人では見過ごすようなかたつむりの赤ちゃんを見つけたりするんですよ。

地域との連携 子どもと社会とのつながり

岡園長:最後に地域との連携。子どもと社会とのつながりなんですが、家庭は幼稚園・地域とつながるんですが、家庭と企業ってなかなかつながらない。そこで、昨年109周年を迎えたときに、「109(とうきゅう)」に因んで東急電鉄とコラボレートしました。子どもたちが描くアートで地域を明るく元気にしようと、東急東横線都立大学駅に子どもたちの絵を展示しました。絵を描く前に、東急線の駅長さんをはじめ、駅員さん、運転士さん、車掌さんに来ていただいて、敬礼や出発進行などのポーズを教えてもらいました。子どもたちにとって、入口となる動機やつながりというのが大事なんですよね。

ESDの実践で大切にしていること

岡園長:実践において「ESD」という言葉はあくまでも脇役であり、「わくわく」を体験している渦中で、実はESD実践が進行しているしかけをつくる。ESDは教えるのではなく、ESDという考え方を保育者が理解し、それを意識した保育を実践することが大切じゃないかと思っています。いまはオンライン異文化交流、センス・オブ・ワンダー、地域との連携などを軸に展開していますが、対面交流が再開した際は、皮膚接触コミュニケーションであるソマティックアプローチも含めハイブリッドな実践をしていこうと思っています。

服部:「実はつながっている」というところがポイントになりますね。友だちのお父さん・お母さん、地域、世界というように、つながりをいかにつくるかがESDなんじゃないかと思いました。コロナ禍はオンライン保育によって園と家庭をつないだり、今回のように海外園とリアルタイムにつながったりと、保育の可能性が広がりました。あらためて、今回の取り組みから得たものはどのようなものでしょうか?

岡園長:やはり異国の同世代の子どもたち同士がつながるということは、世界で起きていることが他人事ではなく自分事に置き換えられるようになる。それは、10年、20年先のことかもしれないけど、人とつながることによって、「自分が世界の中の1人のグローバル市民である」ということを身をもって体験することができる。オンラインという形ではありますが、オンラインだからこそ限りない国の人たちと話すことができる。これは大きなことだと思います。

岡園長それに、情報に操作されない「今」を伝え合うような生きた交流ができることも、子どもたちにとって大きいです。この夏に予定しているケニアの子どもたちとの交流では、「サバンナにはどんな動物がいるの?」「マサイ族はどんな生活をしているの?」「あれ、こんな高層ビルがある!」というような、先入観を取り払うような交流を予定しています。日本とケニアの子どもたちの目に、それぞれがどのように映り、何を感じるのか今からわくわくが止まりません!

服部:高層ビル!

岡園長:あともうひとつは、保育者ですね。保育者の研修もセットでできることはとても画期的です。園で働きながら、世界の保育の「いま」を知れる。いろんな講演会に行ったり、本を読んだりすることもできるけど、そうではなく、その土地でいま働いている世界各地の保育者とつながれるということは、保育者にとってものすごく大きな財産になると思います。そして、そこで感じたことを日々の保育にフィードバックすることが貴重な経験になるんじゃないかなと思います。

服部:ありがとうございます。やはり先生たちへの影響も大きいですよね。すごく価値のあるものだなと感じました。岡先生が最初におっしゃっていたように、志のぶ幼稚園さんだけじゃなくて、他の園さんでも広がっていくといいですよね。

岡園長:いいですよね~。いろんな体験をした日本の園のみなさんたちとつないで、情報共有するのもいいですよね。

服部:そうですね!それもわくわくしますね!いろんな実践が集まって、次はどんなことをしようかと未来を考える。

岡園長:ある園では忍術を教えたり、ある園ではお相撲を教えたりというように、「日本」の伝え方も園によってさまざまだと思います。それぞれの園では何を伝えるんだろう?というのを共有するのもすごくおもしろいと思います。

自分の中のサステナビリティを考える

服部:取材のとき、岡先生が「ESD」を意識しはじめたのは「サステナビリティ」という言葉がきっかけだったと教えていただきました。学生時代には、いろんな世代・職種の方が「自分のサステナビリティ」を語るフリーペーパーを制作されていて、わたしも拝見しました。みなさん、自分の体験のなかに自分が大事にし続けたいことを語られていて、体験することのすばらしさと体験したことを自分の中に落とし込む、自分に問いかけることの大切さを教えてもらいました。

岡園長:そのフリーペーパーは1997年につくったものなので、もう25年近く前になりますね。そのときには「ESD」という言葉はまだなく、「サステナビリティ」という言葉もまだ世の中にそんなに広まっていなくて。当時、自分は学生でしたけど、「持続可能性」「サステナビリティ」という言葉をどう周りに伝えていこうと思いながらつくったものです。

服部:いま読んでも共感のある読み物ばかりでした。岡先生のサステナビリティは何でしょうか?

岡園長:そうですね、こうして再び問いかけをいただいて「自分の中のサステナビリティってなにかな?」と考えたときに、ひとことでまとめるとこれしかないなって思います。

人生死ぬまでわくわく

服部:おお~!

岡園長:自分の大好きな格闘家がいるんです。最近よく親しくさせていただいていて。その方が「人生死ぬまで挑戦」と言っていて、もうかっこよくてですね。「人生死ぬまでわくわく」!ぱくってしまいました(笑)。死ぬまでわくわくすることができたら、何も後悔することはないだろうと。その「わくわく」というのは、周りにわくわくを届けることが自分にとってのわくわくだと思っています。

服部:すばらしいですね。わくわくを届けられている周りのひとの1人です。

岡園長:ありがとうございます(笑)。やっぱりね、1か月のスケジュールのなかでも1日なにか楽しみにすることがあれば、そのためにがんばれる。その予定が終わる前に次のわくわくをループさせていく。わくわくできる人生を送れたら幸せですね。

服部:未来志向のわくわくという言葉。わたしも日常に取り入れていきたいです。

オンライン異文化交流をはじめたい先生たちへ

今回、志のぶ幼稚園が取り組んだ「オンライン異文化交流」を自園でもやってみたい!興味がある!という先生は、志のぶ幼稚園の問い合わせフォームよりお気軽にお問い合せください。子どもたちがわくわくするような体験を広めていきましょう!

学校法人久光学園志のぶ幼稚園(東京都目黒区)

都立大学駅・大岡山駅近くにある、創立明治44年から100年以上続く歴史ある幼稚園。2020年夏より、オンライン異文化交流に取り組み、コロナ禍もグローバルな感性を育めるとして世界OMEP「ESDアワード2021」を受賞。
https://www.shinobu-kg.com/

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