この記事のポイント
- 震災の教訓を振り返り、地域ごとに必要な備えを話し合うワークショップを開催
- 保育施設や子どもに関わる取り組み事例 ①一景島保育所(気仙沼市)②名取高校(岩沼市)
- 保育者や学校の再開が復興のスピードに直結。保育者が持っておきたい心構え
―― むすび塾をはじめるまでの経緯について教えてください。
河北新報では、宮城県沖地震が30年周期で繰り返されていたことから、他新聞社に比べても災害に対する備えの記事を多く取り上げてきました。しかし、東日本大震災の犠牲者は約2万人。「今までの防災報道は何だったのか」という思いが震災後ずっとありました。
その後、被災者の方の話を聞いていく中で痛感したのは、同じ沿岸部でも、リアス海岸と呼ばれる県北部と、内陸に向かって平野が広がる県南部では地形が全く異なること、都市部と漁村では日中生活している人の年代が異なること、こうした地形や生活者の顔ぶれによって被害の形も必要な備えも大きく変わるということでした。特に東日本大震災は津波が川を遡る地域が多くあったことも特徴的で、川の形状によっては、内陸に逃げているにも関わらず前方の川から津波に遭うという被害もありました。
「何か一つの特効薬がすべての地域に効くことはない」。こうした実情を受け、震災の教訓を振り返り、地域ごとに必要な備えを話し合うワークショップを開き、それを紙面化する防災報道に転換しようと考えました。それが「むすび塾」です。
―― これまでに104回開催されてきたと伺いました。
宮城県を中心とした被災地での開催が75回、県外が25回、海外が2回、オンライン開催が2回です。県外で行う場合は、東日本大震災の被災者の方を語り部として、震災の体験を共有してきました。
加えて、東日本大震災以降は各地で様々な防災対策が進んでいます。そうした全国の先進的な取り組みを被災地に逆輸入したいという思いもありました。
―― 保育施設や子どもに関する取り組み事例はどのようなものがありますか?
一つは、気仙沼市の一景島保育所。その保育所は海から近い位置にあり、東日本大震災のときも津波浸水域でした。当時、保育所にいたのは乳幼児71名と保育者12名。乳幼児を抱えて高台に避難することは、女性の多い保育所にとってかなり体力を要する状況です。そこに駆け付けたのが近隣の水産加工会社に勤める男性社員2名でした。一景島保育所では、震災前から保育所の避難訓練に地域の事業所の方に参加してもらっていたそうで、駆け付けた男性社員も日頃から訓練に参加していた会社の社員だったそうです。
震災の教訓でありながら解決が難しいものの一つが、乳幼児や高齢者といった要援護者の避難の支援。そして、保育者のような要援護者をサポートする人たちを守ることです。一景島保育所の事例は、保育所周辺に住む人や事業所との交流を深め、連携することの大切さを再認識するものでした。
もう一つの事例は、岩沼市の名取高校。2021年6月、避難所に指定されている同校を、地域の保育所の保育者と子どもたちが避難経路の確認のために散歩を兼ねて訪問しました。それをきっかけに高校生たちは自分たちの学校が「避難所」であることに改めて気づき、乳幼児の受け入れに必要な準備物や自分たちにできることを考えはじめたという例です。その後、高校生たちは保育所に聞き取り調査を実施し、幼児用のトイレが必要であること、自らが遊んだり話したりすることが子どもの安心感につながることなど、避難所としての課題や必要なふるまいも見えてきたようで、保育所との交流そのものが高校生たちの防災に対する意識を身近に引き寄せることにつながっていました。
―― 須藤さんが思う、保育者に大事にしてほしいことについて教えてください。
幼児を守ると同時に、自分や家族を守ることをまず大事にしてほしいです。そのために、保育所のある地域の地形や人、特性を知ること。宮城県七ヶ浜町の自治会では、震災前にハザードマップを作成していたことで二次避難ができ、津波を逃れました。最初に避難した先は海抜3m。その後の津波警報で発表された同地域の津波の高さは6m。「ここはダメだ。10mのところに行こう」となるべく高いところを通って二次避難をしたそうです。マップづくりを通して、地域の地形や海抜、危険な箇所や役に立ちそうな箇所を自分たちの目で見て調べていたこと、地域住民との交流が育まれていたことが迅速な判断を後押ししました。
保育所や学校の再開は復興のスピードと大きく関係します。保育所が再開すると親は子どもを預けられて、自宅の片付けや仕事に復帰できるようになる。少しずつ少しずつ復興が動いていく。そうした地域の復興に伴走する意味でも防災に目を向けてほしいです。
むすび塾(河北新報社/宮城県)
河北新報社主催の防災ワークショップ。3.11を振り返り、今に生かそうと宮城県を中心に全国で巡回開催。語り部・専門家とともに世代・地域を超えた体験・意見を紙面化している。