「これまでは日々の保育で撮りだめた写真やドキュメンテーションを職員で共有し、それを元に園児の発達段階を検証し合うことができていなかった。でも、そうした記録は保育の質向上につながる大切な要素」
そう語るのは、開発段階から実践園としておがスタを導入している認定こども園みどりのかぜエデュカーレ(青森県) の田頭初美園長。同じく認定こども園ひかり(福島県)の天笠昌明園長も同様の課題を抱えていました。
産官学連携により開発された保育記録クラウドシステム「おがスタ」は、スマートフォンで撮影した写真をコメントと共に投稿し、園内で共有するというもの。投稿にはコメントや発達段階を表すシールを送ることができるほか、投稿データを元に保護者に共有するおたよりを作成できます。
実証実験では、園の投稿に共同研究者である専門家がフィードバックを行い、コミュニケーションと研修創発を促進。最初は「今日は○○をしました」という出来事中心だったものが、実証実験をする中で園児の変化を捉えるような場面や保育者の語りかけ、エピソードを切り取るように変わっていったそうです。
共同開発の発起人で保育学・幼児教育学を専門とする岩手県立大学の井上孝之准教授は、「投稿された内容が保育に求められる10の姿や5領域の何にあたるかを意識する。職員同士でコメントをしあうことで保育の質向上や職員の自己肯定感につながる」と狙いを語ります。
保育者の養成教育を専門とする聖和学園短期大学の上村裕樹准教授が両園の投稿に対し、「園児の会話」「異年齢との交流」「遊びの発生経緯」などを問いかけ、保育者はその場面を客観的に捉える機会もあり、異なる視点の問いかけが保育者にとって刺激や成長につながっているそうです。
保育の質向上において、「ラブコミュニケーション」という職員目標を掲げ、笑いだけでなく辛さ、悲しみも共有しあい、ワンチームで園児の成長を支えることを重視する田頭先生の園では、おがスタでの職員同士のコメントも活発化させたいと語ります。さらに天笠園長も、「開園以来、ワールドカフェ形式の研修や講演会、先進園視察を行ってきた。おがスタで日々の記録を園内研修に活かすとともに、将来的には田頭先生の園ともつながって園の取り組みを共有できたら」と期待を膨らませています。
保育者同士の対話を通じた学びを研究している群馬大学の音山若穂教授は、「おがスタは省察型学習によって保育の質を向上させる強力な支援ツールになる」と強調。「これまではあえて書き留めなければ消えていた保育者の想いや学びのプロセスがデータ化・可視化され、自らの保育をメタ認知を働かせて学ぶことができる」と魅力を語りました。