保育コホート研究は、筑波大学大学院の安梅勅江教授が責任者となり、夜間保育連盟の保育専門職、様々な領域の研究者、学生などで構成される「保育パワーアップ研究会」で進められてきました。発達評価、育児環境評価、保育環境評価、気になる子ども支援、社会的スキル尺度という5つの支援ツールを開発し、保育者や保護者から集めた園児情報を集積。データに基づく具体的な支援設計ができるようになったことで、保育者は科学的根拠のある保育の実践と、発達障害や虐待の早期把握・支援が可能になりました。
その後、システムがクラウド化。タブレットに対応し、操作性・利便性が向上。結果は瞬時にグラフ化されるので、発達の伸びや特徴などを視覚的に捉えられるようになりました。
さらに、研究会メンバーは、完全に匿名化された園児情報を継続的に集積することで子どもの発達の軌跡と何が発達に影響を与えるのかを分析。例えば、育児環境と2年後の発達では、「一緒に歌を歌う」育児環境にあった子どもの生活技術は、そうではない子どもと比較して、よい方向に向かう可能性が15.3倍高く示されています。
また、育児環境と1年後の社会的スキルについては、一緒に本を読む機会があると1年後の自己表現の力が有意に高く示されています。こうした分析を進めた結果、同研究会では保育形態や時間が問題ではなく、子どもの発達に適した育児環境があるか、保護者の相談相手や育児協力者がいるかなど、保育専門職が子どもと保護者に真摯に向き合うことがよりよい支援につながることを示唆しました。
登録園児数は44,000名
研究は今年で18年目を迎えます。ツールは現在、全国の保育園や幼稚園91園が利用し、登録園児数は44,000名を超えました。WEB園児発達支援システム「HOP(ホップ)」と命名され、利用園は増加中です。
このシステムを活用している認可保育園の保護者11,640名を対象に1年後の育児環境の変化を調査したところ、子どもをたたくなどの行為は6~7割減少し、家庭の望ましい関わりは、3~8割増加したという結果も出ているそうです。妊娠期、学童期、思春期への拡大や、多言語化による国際比較も検討されており、今後の研究成果にも注目です。
渡辺 多恵子 氏
日本保健医療大学保健医療学部准教授。筑波大学大学院 人間総合科学研究科博士後期課程修了。現在は、「健康長寿」と「保育」の2つの大きなコホート研究に参加しながら「地域コホートデータを用いた妊娠期から思春期までの保健福祉ケアシステムの確立」をテーマに研究を行っている。