置き去り防止装置の開発裏 「園バス継続」に光を

 2023年4月より送迎用バスへの安全装置の設置が義務化されます。しかし、国の厳しいガイドラインに開発が停滞。供給に懸念が広がる中、製品化に向け改良を重ねる㈱日本ヴューテックを取材しました。

 近年相次ぐ園バスでの園児置き去り事故を受け、バス通園に不安を抱く保護者や園バスの運行をやめる園が増えている――。

 こうした声は、バックアイカメラなどの車載機器を開発する㈱日本ヴューテックにも届いていました。 

 「共働きなど、園バスがあるからこそ成立する生活スタイルがある。置き去りという痛ましい事故だけでなく、園バスに関わる事故をなくしたいと思った」

 そう語るのは、同社代表取締役社長の松波登氏と専務取締役の川出隆氏です。

 同社が置き去り防止装置の開発に取り組みはじめたのは2022年10月。国から義務化の方針が発表される以前のことでした。当時、「事故をなくすにはどうしたらよいか」と考える松波社長の目に留まったのはアメリカの事例。エンジンを切るとアラート音が流れ、バス後方に設置した装置のボタンを押すと鳴り止むしくみで、自然と車内点検を促すものでした。

 「感動した。当初考えていたセンサー式はメンテナンスが必要でランニングコストがかかる。園が運用しやすい形で社会貢献できると直感した」と松波社長はいいます。

 そうして方針を定め、トライアル園へのヒアリングと改良を重ね製品化されたのが、「まもるくんA(エース)」です。アメリカの事例と同様に、エンジンを切ると車内点検を促すアナウンスとアラート音が流れ、バス後方に設置した「まもるくんA」のプッシュボタンを長押しするとアラート音が解除されるシンプル設計。2分間を超えてもボタンが押されなかった場合は、車外スピーカーから「車内点検をして警報を切ってください」というアナウンスが大音量で流れます。

 さらに、「まもるくんA」の「A」には切り札という意味も。同製品には万が一車内に取り残されてしまったときに車外にSOSを伝える「たすけてぼたん」が搭載されています。ボタンはエンジン稼働中は作動しないため、走行中の子どものいたずらで作動することはありません。

 取り付けを行った静岡県藤枝市の大洲こども園の新村和彦副園長は、「クラクションを押す行為は小さな子どもの力では難しい。つい押したくなるボタンという形状のため、子どももバス内に助けを呼べる機能があることをインプットしやすい」と手ごたえを感じているそう。今後の活用についても「アラートを止めることが目的にならないよう、人の目での確認を行いながら安全性を高めていきたい」と語ってくれました。

機器の力で「人命と安全」を守る

右から松波社長と川出専務

 創業以来、30年以上商用車向けの安全装置を開発してきた㈱日本ヴューテック。主力製品のバックアイカメラもドライバーの負担を減らし、交通事故をなくすことを目的に開発されました。

 「大型商用車は前方や後方にドライバーの死角がある。大型免許を取得する際に、危険予知運転が難しい事実を目の当たりにした」と松波社長。その後は、モニターやカメラを製造するメーカーとして、助成金交付の働きかけに奔走。十数年後にようやくその性能が認められ、販売代理店も全国に広がりました。

 「まもるくんAの取付工事も全国で対応できる。これまでの歳月はこのバスアラートシステムをつくり全国に普及させるためにやってきたのではないかと思うほど」と、培ってきた技術と人脈が今に直結していると実感しているそうです。

 すべては人命と安全を守るため。同社は義務化後の変化を追いかけ、改良を重ねていくとのことです。

「まもるくんA」は内閣府ガイドライン適合製品です
㈱日本ヴューテック(神奈川県)

 1988年創業。バックアイカメラをはじめとする車載機器を製造。「人命と安全を守る」という理念のもと、新たに園児置き去り防止装置「まもるくんA」の提供を開始した。

執筆者
パステルIT新聞

「園づくり・人づくりを考える」をテーマに園に役立つITツールやサービスを紹介するIT専門紙。2008年創刊。全国の幼稚園・保育園・こども園と幼稚園教諭・保育者養成校、あわせて11,000施設以上にお届けしています。

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