この記事のポイント
- 常に災害と隣り合わせ。開園100年の慶和幼稚園が積み上げてきた防災対策
- 災害時の連絡手段はどう確保する? 対策から見えてきた課題とその対処
- 災害対策の強化で変わった組織風土。コミュニケーションの質に変化
切迫性高まる南海トラフ地震
南海トラフ地震発生時には最大震度7の揺れが想定される名古屋市港区。慶和幼稚園がある場所は周辺一帯が埋め立て地で広く液状化が起こると想定されるエリアです。加えて、開園当時は干拓により陸地がつくられたため、園が位置するのは海抜マイナス0.4m地点。最大クラスの津波が発生した際の基準水位は3~5mになるといわれています。
「地震や津波だけでなく、台風や豪雨の対策も必要な地域。災害と隣り合わせという意識が強く、開園から100年さまざまな経験から対策・改善を重ねてきた」
そう話すのは、伊東慶理事長。これまで津波対策として鉄筋の防災園舎を造ったり、東日本大震災を受けて屋上への避難階段を取り付けたりしてきました。
避難訓練の頻度は規定よりも多い年10~12回。教室での保育中やプールの脱衣所で着替えているとき、預かり保育中など多様なケースを細かく想定し、独自の防災マニュアルを作成。訓練では、放送が流れてから避難するまでの時間を秒単位で記録します。8年ほど前からは保護者が避難訓練や防災教育の様子を参観する防災イベントを実施。保護者向けに講演会を開くなど、家庭の防災知識の向上や備えにつなげています。
備えているからこそ感じる不足感
しかし、対策を進める中で伊東理事長が感じたのは、災害時における連絡手段の確保の難しさでした。
「災害時にスマホは使えるのか? バス乗車中や園外保育中はどう連絡を取るのか? 園児が増えて行事を市内の施設で行う機会も増えた。組織が大きくなり、職員のコミュニケーションの質や量を高める必要性も感じていた」と伊東理事長。
そこで新たに導入したのが、株式会社ニシハタシステムのIP無線機です。災害時も通信規制を受けにくくボタン一つで通話可能。スマホにインストールするIP無線アプリと異なり機能もシンプルで、専用端末のため保護者や地域住民から見ても信頼性があります。「総合的に考えて一択だった」と、園では職員室に1台、学年リーダーに4台、別棟・別階にあるクラス用に2台の計7台を導入し、日頃の情報共有にも活用しています。
同時に、同社の緊急地震速報機「伝-MINI-」を導入。地震発生時の震源地や端末設置場所の予想震度、地震の到達時間、津波や噴火情報の有無を知らせる端末で、不特定多数に向けて発報するTV・ラジオに比べ伝達スピードが早く、設置場所に特化した情報を“揺れが到達する前”に得られることが特徴です。要は地震発生直後の数秒~数十秒で安全を確保できるか。同園は発報震度を震度4以上に設定し、有事に備えています。
災害対策強化で組織風土に変化
導入後の職員の変化について伊東理事長は、「安心感が生まれただけでなく報連相がよりできるようになった」とふりかえります。
「誰かに言われなくても職員同士で報告が行われるようになり、日常業務や保育でのコミュニケーションが円滑になった。こうしたみんなで高め合う風土や関係性は、災害時の迅速なコミュニケーションや状況報告につながる」と、災害対策が有機的につながっていく感覚があったそうです。
今後の課題は、外部環境と掛け合わせた災害対策の強化。屋上に避難したときの外気温や雨、避難場所となる小学校がお盆休みの場合など、あらゆるケースを想定し備える必要性を感じているといいます。
「防災に終わりはなく備えているからこそ感じる不足感がある。保護者の声を聞きながら双方向で命を守る行動をとっていきたい」。慶和の防災は常に次の課題を捉えています。
慶和幼稚園
大正13年創立。園訓「強く、明るく、健やかに」を掲げ、幼児教育に力を注ぐ。ICT活用や防災対策にも積極的に取り組み、週1で行う職員会議では研修や学びを共有する時間をつくることを大切にしている。