この記事のポイント
- 「こども誰でも通園制度」の本格実施を見据え。多様化する園の役割
- 全国で広まる「園での子ども食堂」の先駆け。認定NPO法人フローレンスの事例
- 園を拠点に互いの関係性を深め、保育や子育てをしやすい地域に
親の就労有無を問わず時間単位などで子どもを預けられる「こども誰でも通園制度」。2年後の実施を見据え、出産前後を含む地域の子育て家庭支援や子どもの居場所づくり、障がいのある子どもの受け入れ体制の強化など、園に求められる役割が多様化しています。
そうした中、園の多機能化の一例として注目されているのが、園での子ども食堂です。これまで目的外使用という理由から園での子ども食堂を規制する自治体が多くありました。しかし、2023年9月、地域貢献活動の一環として、園での子ども食堂の実施基準を明確化した通知を国が発出。これを機に、全国で開設の動きが広まっています。
「子どもが安全に過ごせる環境があって、子育てや食の専門家である保育士や栄養士がいて、衛生管理が行き届いた給食室がある。園は子ども食堂を行うのに適した環境が揃っている」
そう語るのは、園での子ども食堂の実施について国に政策提言を続けてきた認定NPO法人フローレンスの中村晴子さんです。
同法人は、2019年に仙台市の保育園でいち早く子ども食堂を開設して以来、東京都の保育園でも月1~2回、イートイン型の子ども食堂を運営。スペースの確保が難しい小規模園では、テイクアウト型や食料を無料提供するフードパントリーを実施してきました。
取り組みは回を重ねるごとに地域に浸透し、利用者からは「食べ終わった後に子どもが遊べる空間があるのがありがたい」「育児の不安を相談できた」「地域に自分の居場所があるんだと安心できた」と喜びの声が寄せられています。一時預かりや入園につながった事例も多く、中には、保育士と顔見知りになり子育ての悩みを相談できるようになったことで、子どもの入園と自身の復職を決意した保護者もいたそうです。
「これまで園との接点がなかった無園児家庭の多くは孤立した中で子育てに奮闘している。地域に支えられながら子育てしてきたかつての世の中とは違い、今は孤独な子育ても増えている。そういう家庭にも園を活用してほしい」と中村さん。取り組みを通じて地域の子育て家庭が抱える悩みを知る中で、地域に園を開き、地域に目を向けていく意識が職員の間でも醸成されてきたといいます。
子ども食堂で担う新たな役割
さらに、フローレンスは、資金不足や人手不足を解決するために園での子ども食堂を応援する助成事業も開始。地域に根差した全国の好事例が集まっています。
新たな地域とのつながりが生む効果について中村さんは、「地域の方に気軽に園に足を運んでいただけるようになることで、地域に仲間が増える。園を拠点に互いの関係性を深めていくことで、保育や子育てをしやすい地域になっていく」と期待を寄せます。
こども誰でも通園制度の実施に向け、短時間の保育利用や医療的ケアが必要な子どもの受け入れなど、地域の子育て拠点としての役割がますます求められるようになります。フローレンスは、これまで保育事業の中で培ってきた保育園こども食堂のほか、医療的ケア児の受け入れノウハウを広める研修に注力。保育・子育ての未来を見据えた動きに注目です。
認定NPO法人フローレンス
こども・子育て領域の社会課題解決活動と価値創造に取り組む。保育事業で自ら実践を積み重ね、これまで多くの政策提言を行ってきた。2023年度からは保育園こども食堂を全国に広めるための助成事業を実施。