この記事のポイント
- CGで再現された保育室や他の保育者の視点をVRで疑似体験!
- 情報抽出には個人差と熟達差がある。互いに抜き取る情報を繰り返し共有する
- 保育現場におけるVRの可能性「保育者の熟達化」「保育の質向上」「専門性の可視化」
CGで再現された保育室
「すごい!」「ここどこ?」
この日、レイモンド西淀保育園に用意されたのは、CGで再現された0歳児・1歳児の保育室。VRゴーグルを覗くと7m×7mの仮想保育室が目の前に広がり、子どもたちと保育者が動いている様子を確認できます。自身の動きに合わせて視点も変わるため、遊んでいる子どもの様子を間近で見たり、机の下を覗き込んだりでき、その感覚に先生たちも驚き興奮。
もう一つは、子どもたちと散歩へ出かけたときの様子を一人の保育者目線で撮影した映像です。音が360度から拾われているため、後方からも先生や子どもたちの声が聞こえ、その場にいるかのような没入感を体験できます。
情報抽出には「熟達差」がある
今回の研修テーマは、「保育者の気づきを高めるには?」。他者の気づきをVRを使って共有するという新しい試みで、兵庫教育大学大学院学校教育研究科の水落洋志先生とともに企画されました。
保育者の熟達化を研究する水落先生によると、情報抽出には個人差と熟達差があるとのこと。保育経験年数に差がある保育未熟練者と保育熟練者の保育現場観察時における眼球運動と情報抽出を比較した研究においても、未熟練者は一つ一つの箇所をじっくりと見ながら視線を切り替えていくのに対し、熟練者は視線の切り替えが素早く、全体に目を配るなどの違いが見られたそう。
「大事なのは抽出した情報を共有すること。互いに抜き取る情報の差異を繰り返し共有することが保育者の熟達化につながる」
研修では、VRで見た映像に対し、「0~1歳児クラスの保育環境をよりよくするためには?」「散歩中のAくんの興味・関心は? それをもとにどんな保育を展開する?」などの問いが設けられ、その後にディスカッションを行います。
視点を疑似体験 学びを深める題材に
研修を企画した社会福祉法人檸檬会の青木一永副理事長は、「他者の視点を疑似体験できるVRには学びのチャンスがある」と手ごたえを実感。「子どものことがよく見えている保育者はどんな視点で何を見ているのか。それを題材に学びを深められたら、とてもおもしろい」と語りました。
さらに、子ども理解について石井不二恵園長は、「『何が足りないんでしょうか』と落ち込む保育者もいる。これまでは手を差し伸べたくても言語化が難しい世界だった。そうした人材育成にもVRは使えるかもしれない」と保育業界の変化の予兆に目を輝かせます。
VRは自園の保育室を再現したり、体験している人の視線の動きを録画・共有可能。文章で書かれた事例や写真・動画よりもリアリティのある教材を使うことで、抽出される情報にも変化が期待されます。
「VRのよさは子どもにとってどんな環境がよいかをシミュレーションできること。様々な場面設定を体験することが保育の質につながる」と水落先生。ゆくゆくは保育の専門性の可視化へとつなげられたらと語る水落先生に同園からも共感の声が寄せられました。
社会福祉法人檸檬会 レイモンド西淀保育園
人材育成に積極的に取り組み、探究的な往還型研修を行っている。保育業界の質向上を目指し保育士等キャリアアップ研修も開始。