人材確保支援の調査研究 働き方改革とICTの可能性

職員へ質問「就職してからギャップを感じたか?」
一般社団法人全国認定こども園連絡協議会は、2017年から3カ年計画で、文部科学省の「幼稚園の人材確保支援事業」に取り組んできました。その研究結果を紹介します。

 同団体は、毎年全国各地で実施している研修会にて各地域の園と情報交換する中で、人材不足や採用難である実態、人材確保における課題解決が急務であることを認識してきました。この危機感を持ち、2017年から3年に渡り、文部科学省より「幼稚園の人材確保支援事業」の委託を受け、調査研究に取り組んできました。まず1年目は、求職者側と雇用側の就職・採用活動についての実態を調査。次に2年目は、求職者が就職したくなるような働きやすい園づくりを目指して、園業界よりも先行している一般企業の働き方改革の取り組みを収集。そして3年目は、業務負担軽減や保育者の育成につながるICTについて調査に取り組みました。

園就職後4割が「ギャップ感じる」

 求職者側の実態には学生や職員、潜在保育者を対象に、雇用側の実態には園経営者を対象に、2718名にアンケート調査を実施。求職者の7割が就職活動で受けた面接数は1園であり、一般企業の就職活動に比べて圧倒的に少なく、職場研究を充分にせずに就職することで早期離職につながっている可能性や、職員の4割が就職前と後とで園内の人間関係や仕事内容へのギャップを感じた経験を持っていること、潜在保育者が復職に重要視するのは給与や福利厚生であること、採用活動に不満を感じている園は就職情報サイトを多く利用する傾向にあること、一方で採用活動に満足している園は自園のWebサイトの内容を充実させている傾向にあることなどが明らかになりました。こうした結果から、園は保育者にとって働きやすい職場づくりに取り組み、自園の魅力を発信すること、一方、求職者は視野を広げ、自分に合った園選びを行えるような支援が必要であると導き出しました。

園の方針に合った働き方改革が必要

 就職・採用活動の実態調査より、園の給与や福利厚生の見直しを求職者側で求めていることや、2018年に働き方改革法案が成立した社会情勢から、魅力ある園づくりにも、働き方改革がキーワードとなりました。一般企業の先進事例を収集したところ、企業理念(園の場合は理念や教育方針)に則った取り組みとなっていること、ただ残業時間の削減や休暇取得を推進するのではなく、「何のための働き方改革なのか?」を随時考え続け、活動のPDCAサイクルを回すこと、そのためにきちんと推進メンバーを選出し指揮を執る人員を置くことなど、真の働き方改革実現のためのヒントが得られました。そして、これらは日々のコミュニケーションや面談を通して、リーダーが社員(園の場合は職員)1人ひとり違うワークライフバランスを認識することが前提として必要です。

職員共通理解促進SNSが一役買う

「園内SNSの活用によって職員同士の共通理解が増えた」

 2019年には、就業規則の見直しに取り組む園が出てきた一方で、残業時間を減らすだけでなく、保育の質向上につながる職員の人材育成に課題を持つ園経営者が増えてきました。そこで、チームワークを活性化させたり、職員同士の信頼関係を構築したりする方法を検討。その時その場から離れづらい状況が多々ある園にて、時間や場所の制限を超えてコミュニケーションが取れるICTとして、園内SNSの活用効果を調べました。対面でのコミュニケーションを重視する中でも、約67%の職員が対面で話ができない状況下ではSNS上での会話は有効であると、約73%の職員が園内SNS上で情報を共有することによって職員間の確認が楽になったと、約60%の職員が共通理解も増えたと回答する結果となりました。オンラインでのコミュニケーションと対面でのコミュニケーションを上手に使い分けることで、職員同士の一体感がより醸成されていることがわかりました。それは同時に、発信する言葉の使い方や受け取り方など、ITリテラシーを高めることも重要であることがわかります。

執筆を終えて

本調査結果では、業務効率だけでなく保育者の専門性をより活かすICT活用の可能性が垣間見られました。(八木)

執筆者
八木侑子

2・4面担当のパステルIT新聞編集スタッフ。ライティングだけでなくデザインも担当しています。

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