“見えない思い”可視化 共感が集まる園に

 教育理念を目に見える形で丁寧に伝えることで、保護者・職員の共感を集める認定こども園せいか幼稚園(奈良県)。安定した未就園児募集や職員採用・定着を支える背景には、「伝え続ける」という強い意志としくみ化がありました。

この記事のポイント

  • 多角的なしかけと意志で、思いを可視化。全員が日々体現するグランドイメージ
  • 日常的に園を保護者に開放。子育て支援ルーム「マミールーム」がもたらした変化
  • 安定した採用と90%を超える職員定着率を実現! 幼児教育から地域へと広がるせいかの理念

 

日常保育の魅力 “毎日”伝えるしくみ

 「将来しあわせになる子、将来伸びていく子を育てる」を教育理念に掲げるせいか幼稚園は、教育方針「褒め育て長所伸展法」「幼児の頃こそ本物を」を軸に、カリキュラムを展開しています。人間の土台となる部分を丁寧に褒めて認め、子どもたちの愛された記憶や自己肯定感を育み、楽器や絵画、ネイティブ講師の英語など、日常的に触れる本物で感性を磨きます。

「本物」を形にしたランチルーム。冬は暖炉で薪を燃やし、火と生きることを学ぶ
器楽奏にチャレンジする子どもたちが使うのは、クラシックコンサートで使われるような本物の楽器。褒め育てを大事に、保育者が丁寧に寄り添う

 こうした先代から続く理念・方針を大切にする傍ら、出川裕崇理事長が感じていたのは、園の思いを数字で語る難しさ。思いを目に見える形で表現し、説明会や行事だけでなく、全職員が毎日実践できる状態を突き詰めたかったといいます。

左から出川理事長と高谷園長

 その一貫として同園がはじめたのが、育児中の保護者に園を開放する子育て支援ルーム「マミールーム」です。

マミールームでは専属職員が落ち葉アートや体幹などプログラムを企画

 1日最大12組の親子が過ごすのは、そのためにリフォームした特別なお部屋。自分の時間をなかなか持てない子育てママたちがリフレッシュできるようにと棚に揃えられたのは、エルメスをはじめとする絵画のようなカップ。ここにも園の教育方針が表れます。そして、窓からは在園児が遊ぶステージホールが見渡せ、子どもたちの様子や保育者の声かけから、説明会で語られる園の理念を自身で確かめられるよう空間がつくられています。

出産を経て復職し、マミールームを担当する辻井先生。利用者同士の共通点から会話のきっかけをつくることを大事にし、保護者との会話や子どもの様子は折に触れて振り返れるようにメモしているそう
その日の気分に合わせて選ぶカップは出川理事長のセレクト

 “見てもらえている感覚”から保育の質が変わってきたと話すのは、高谷真子園長です。「“幼児の頃こそ本物を”の一つには、最も近くで子どもたちと関わる人的環境がある。先生たちが自己研鑽してくれるから、綺麗事ではなく理念を実現できる」と信頼を寄せます。

せいかマインド 語り深める2冊の本

 教育理念やあり方を職員と共有するアイテムとして出川理事長らが作成したのが、『SEIKA MINDBOOK』(マインド編・原体験編)です。

あり方やルールをまとめた『SEIKA MINDBOOK』と職員勤務ガイドブック

 「僕が考えるのはハインリッヒの法則でいう300個が何かということ。仮に不適切保育が起きたとしたら、その現象の前段階には〈園舎が汚い〉〈職員いじめ〉などの異なる事象が29個あり、それらには〈収納場所がない〉〈人手不足〉などの300個のヒヤリハットがある。その一つに言葉遣いなどのあり方が含まれる」と出川理事長。

教室内の棚は収納する物のサイズや個数に合わせてオーダーメイド。整理整とんがしやすくなる環境づくりは出川理事長のこだわり!
廊下の壁に備え付けた鏡には、職員が自身が働く姿(表情や姿勢、身なり)を客観視するのを助ける役割がある

 マインド編では理念や方針、挨拶、整理整とん、素直など、法人として大切にしたい言葉と捉え方が丁寧に紐解かれ、原体験編では職員がテーマに沿って自身の体験や考えを寄稿します。

 「皆が関係し、皆がやらないといけない。書いた本人は一層責任を持って取り組んでくれるようになり、読み手も書き手の顔が見えるので感化される」

 明文化により、同僚や保護者に説明しやすくなったという声が職員からも寄せられているそうです。

敬意を大事に、自分がいま感じたことを伝え続けることを大切にしていると話す高谷園長。情報共有ツールChatworkでは高谷園長が発信する専用チャネルもあるそう

 3年前からは、近隣に複数園を展開する利点を活かし、各園から1~2名が参加するグループ合同の毎日研修を実施。クラス運営やグループ保育の仕方など、職員自らが講師となり、グループに必要な考えや技術を学び合います。

幼児教育から地域へ。理念を形に

 理念を日々体現し深めるせいかマインドは、安定した採用と90%を超える職員定着率にも表れます。新卒採用の5~6割を占める実習生の受け入れは、全職員で受け入れる姿勢で丁寧に応対。通年採用で、園に共感した実習生が早期応募できる受け皿も整えます。

 そして、職員の定着を支える注目のしくみは報酬制度です。例えば入職5年目は会員制ホテルに本人と家族を招待。ホテルマンの言葉遣いや綺麗な施設から職員自らが“本物”を体験できる、園からの贈り物です。

 さらに、思いは地域にも。「育ててもらった香芝市にせいかの強みである音楽で貢献したい」と、学童併設型金管バンド「香芝せいかキッズバンド」を2024年に設立。中学校のクラブ活動地域移行化を受け、同年に中学生対象のジュニアバンドも設立しました。

自身も吹奏楽部で、プロの演奏家を目指すほど音楽に夢中になり、人生観を学んだという出川理事長
2025年11月に小中混合バンドで臨んだ日本管楽合奏コンテスト全国大会に出場

 「本気で頑張れる場所が地域から減っていく。学校で学べないことを学んでほしい」。せいかの理念〈将来しあわせになる子、将来伸びていく子を育てる〉が園を超え、波及しています。

認定こども園せいか幼稚園

1991年に奈良県香芝市で開園し、姉妹園が9園ある。経営方針発表会や立ち会議、マインドブック、Chatwork等で理念浸透を図る。音楽を強みとし、2024年春に設立した吹奏楽クラブが2025年全国大会に出場。

認定こども園せいか幼稚園
執筆者
服部由実

2021年より4年間、編集長を務め、現在はIT企業の広報部門に所属する立場から企画・取材を担当。

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