この記事のポイント
- 部分的な効率化ではなく、よい循環を描く。組織変革を目指すDXに生成AIを活用
- 元エンジニアの発想光る。「AI主任」「電話業務改革」「事務効率化AI」
- 残業ゼロ・年間休日145日以上を実現。DXの循環は他園、教育保育現場へ
組織全体で変わる そのためのDX
学校法人アルコット学園が本格的にDXに着手したのは2020年。その背景には、深刻化する園児減少や非効率なフローにより増大する業務負担、早期退職、保育・教育の質低下への危機感がありました。
「部分的にITで効率化を図るのではなく、効率化により削減した残業代を給与や昇給に還元し先生たちが働きやすい職場をつくる。生まれた余白で園児の変化に気づきやすくなり、保護者対応も厚くなる。よい循環をつくるのに組織全体で変わる必要があった」
そう話すのは、前職でエンジニア経験のある鈴木雄大副園長です。
まず同園が取り組んだのはビジネスチャットツール「Chatwork」によるコミュニケーションの効率化。情報をChatworkに集約することで、誰もが情報にアクセスしやすくコミュニケーションが生まれやすい環境を整えました。
そして現在、同園のDXの中核を担っているのが生成AIです。鈴木副園長はAIチャットボット「ChatGPT」に着目し、独学で業務効率化につながる活用を模索。そうした中、2024年に園独自で開発したのが、退職した主任の知識や経験を学習したAIが質問に対し回答する「AI主任」です。
「当時、13年目の主任から退職の相談があった。教育の質を落とさないためにできることを考えたときに『AI主任をつくる』という発想になった」と鈴木副園長。主任に保護者からよく寄せられる質問や回答例、連絡帳の書き方例をまとめてもらったそうです。
さらに、ChatworkとChatGPTをAPI連携することで、Chatwork上でAI主任に質問し、内容を全員で共有できるように運用も工夫。「他の人の質問を見て気づくことも多く、リーダーに質問が集中することもない」と職員の学びや助けに。「本当に主任がいるみたい」と頼もしい存在となっているそうです。
即効果を実感 AIで電話業務改革
そして、数ある取り組みの中で鈴木副園長が即効果を実感したというのが生成AIによる電話業務改革です。受電は自動音声応答システム「CallCall-IVR」を導入し、保護者からの出欠や送迎に関する連絡は自動音声で24時間受付。音声からテキストに変換された電話の内容は、ChatGPTに連携し園特有の言葉に変換したものをChatworkに通知。ひと目で用件を把握でき、全職員と共有できます。
架電はAIコーチ機能を搭載したIP電話「MiiTel Phone」を導入。架電内容をAIが解析し、概要や会話比率、トーンから感情を分析。加えて同園ではこれらをもとに今後のアクションをChatGPTでフィードバックするシステムをつくり、これもまたChatworkに情報を集約しています。
目的は保護者対応力の向上と新人の電話教育の強化。固定電話の受電件数は約90%減少し、ブラックボックス化しやすい電話応対も可視化によってトラブルの未然防止や日常的な教育機会につなげています。
小さな成功が次の行動を生む
AI活用が日常となっているアルコット学園。園だよりや連絡帳、指導要録、ブログなどの作成にも生成AIを活用した独自システム「なんでもポケット」を運用しています。園の方針や言い回しを事前に学習させているため、伝えたいテーマやキーワードを入力すると数秒で文章案が生成されます。新人も同じクオリティで作成できる点も職員・保護者から好評です。
「園児を最優先に考えたとき、まず職員が元気になる必要があった。職員と保護者の距離が近くなると保育・教育の質が高まり、結果園児に返っていく」と鈴木副園長。同園はDXによる業務効率化や円滑なコミュニケーションにより、残業ゼロ・年間休日145日以上を実現。口コミによる求職者も増えました。先生の笑顔が絶えないと評判で保護者も「あらゆるレスポンスが早く助かる」と確かな信頼を寄せています。
学校法人アルコット学園しみずがおか幼稚園
1960年創立の歴史ある幼稚園。組織変革を目指した実践は日本DX大賞特別賞を受賞。そのノウハウをもとに、教育保育現場のDXを推進するためのDX支援アプリ「DXプランナー」を開発。希望園には事務効率化AI「なんでもポケット」の導入支援を行っている。