描く自分のキャリア 保育と人生を豊かに

 「働き続けられる園づくりを」。茨城県で保育園を経営する社会福祉法人山ゆり会が法人改革に取り組み始めたのは2017年。当時17%だった離職率は3~4%に。保育士一人一人に寄り添ったキャリアパスの構築について伺いました。

この記事のポイント

  • 人員増員、ICT導入、各種制度の見直し。相次ぐ要望に、法人改革を決意
  • 期待役割の明文化。キャリアパス構築で保育士のスキルアップを支援
  • 目指すのは、終身雇用。ライフステージにあわせて働き続けられる園へ


相次ぐ要望 働き続けられる園へ

 「休みを取りづらい」「時間単位の早退は活用しづらい」「契約職員も特別休暇を取れるようにしてほしい」

 法人改革に取り組む前の山ゆり会には、現場職員から労働条件や環境に関する要望が多く寄せられていました。結婚・出産後も働き続けられる環境では全くない――。疲弊し退職する保育士が相次ぐ現状に、増員やICT導入、業務や就業規則等の見直しなど抜本的な法人改革を決意したのは2017年のことです。

 まずは休みを取りやすい環境をつくろうと配置基準の約1.5~1.8倍に人員を増員。アナログで行っていた連絡帳や集金業務などを見直し、ICT導入やキャッシュレスを進めてきました。制度面でも1時間単位の有給休暇制度を導入し、早退も15分単位に変更。特別休暇も雇用形態を問わず取得できるようにしました。

 そして、山ゆり会が法人改革とともに取り組んだのが、キャリアパスの構築です。山ゆり会にとって必要な職員像を整理し、ステージ(職員の能力)を6階層に分けてそれぞれに期待する仕事の指標を明文化。指標は専門性・組織性・指導性の3つに分け、法人が示す指標と照らし合わせながら自己評価や上長評価、園長との1on1を行います。

山ゆり会が期待する職員像や指標を明文化したキャリアパスを入職時に全員と共有

 「以前の人事評価では園長や主任の主観で評価されることが多かった。自分が今どのステージにいて、何ができて何ができていないのか。指標が明確になることで、現状を捉え主体的に行動できるようになる」

 そう語るのは、法人本部長の松山圭一郎さんです。松山本部長は、保育という仕事が食育や障がい児保育など多様な分野で専門性を求められる仕事だからこそ、管理職になるだけではないキャリア形成を支援しようとキャリアパスを設計。加えて、専門性を活かした仕事に対し手当を支給することを決めました。「どんなキャリアの地図を描いていくか。一人一人のやりがいを見出し、成長を支える上で指標が必要だった」と松山本部長はいいます。

明確な目標が日々の保育を変える

 法人改革やキャリアパスの構築を進め3年が経った頃、働く保育士の意識にも変化が生じてきました。

 キャリアパスや1on1について、入職14年目でサブリーダーを務める吉田裕香先生は、「キャリアパスができるまでは自分が何をどこまでできていなくてはいけないかが曖昧だった。明確な目標があることで、現場における自分の役割を保育や仕事の進め方に落とし込めるようになった」とふりかえります。

スマホやPCで記入したキャリアパスシートをもとに年3回の1on1を実施

 さらに、法人改革において法人側が職員から寄せられる要望一つ一つに向き合ってきたことで、職員も以前より自分の課題や悩み、気持ちを出せるようになったといいます。「言える環境ができてきたことがモチベーションにつながっている」と吉田先生。2023年には副業や自由な髪色を承認。カフェやデザイン、実家の事務の手伝いなど、山ゆり会の職員はそれぞれが多様な働き方を選択し、いきいきと働いています。

目の前の働く人たちを幸せにする

 山ゆり会は、職員130人の3割強が現役保護者・元保護者、2割が職員からの紹介による入職です。これが松山本部長の自慢だといいます。

 「ここが働きやすいと、いま働いている人たちが素直に言ってくれている。長く続けてくれて安心感を感じてくれている。それが保育の質という形で園児に返っていく。〝目の前の働く人たちが幸せになるために何をすべきか〟をきっかけにスタートしたことが保育につながっている」

山ゆり会法人本部長 松山圭一郎さん

 松山本部長が目指すのは、終身雇用。結婚や子育てなどライフステージに変化が生じたときも、雇用形態を正規職員・契約職員から選べるようにし、働き続けられる環境づくりを推進。雇用形態によるヒエラルキーもなく、主任やリーダーを契約職員が担うことも多いそうです。松山本部長もこれまでに何人もの職員から雇用形態の変更について相談を受けてきたといいます。

 気づかされるのは、「働き続けられるからがんばれる」ということ。一人一人のキャリアと人生に寄り添う実践の数々が選ばれる園づくりにつながっています。

社会福祉法人山ゆり会

「遠くても、通いたい保育園。」をコンセプトに茨城県守谷市、龍ケ崎市で園を運営。1on1によるキャリアパスの構築や勤務時間内でのオンライン研修の実施、多様な働き方の推奨など職員のキャリア形成に注力している。

社会福祉法人山ゆり会
執筆者
服部由実

編集長。企画・取材を担当。IT企業の広報部門に所属し、社外広報や採用活動に取り組んでいます。

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