施設の枠を超えて高める防災力 
日保協関東ブロック NS支援締結で広域連携

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(株)ニシハタシステムの西畑専務取締役(左)と山田園長(右)
 日本保育協会関東ブロック代表の幼保連携型認定こども園 片岡ナーサリーの山田園長は、自身の経験と想いをもとに、災害時の互助への取り組みを進めています。さらなる広域での連携を目指し、「災害時の応援協定 NS支援」の締結に踏み出しました。

この記事のポイント

  • 保育者が子どもの不安を和らげられる力は、防災力
  • 法人を超えた協定による「何かあった時に連絡を取り合おう」という関係づくり
  • 被災した園が『困っている』を気軽に発信できる体制を

 

保育者の力を防犯・防災に活かす

 群馬県高崎市の片岡地区は、地震や水害などの自然災害が比較的少ない地域です。しかし、幼保連携型認定こども園片岡ナーサリーの山田和幸園長は「災害が少ない地域だからこそ、繰り返し伝えなければ防災意識は薄れてしまう」と話します。山田園長は28年間消防団に所属し、副分団長や分団長を歴任。さらに40年近く地元の民生委員を務め、地域事情や災害リスクに精通し、防災への理解と実践を積み重ねてきました。その知見は園の保育や地域活動にも活かされるだけでなく、現在は日本保育協会関東ブロックの代表として、この取り組みをより広域へ展開しています。

 「園児は、普段の生活の中で自然に避難行動を身につけられるようにしている」と山田園長は話します。例えば、歩ければ0歳児からリングを持って保育者と一緒に歩き、成長に合わせて年長児になると整列して歩くように指導。こうした日常的な習慣が、災害時の安全な行動につながります。

 保育者への働きかけも独自性があります。避難所体験の研修会では、専門的な応急処置よりも、保育者は読み聞かせや紙芝居で「子どもの心を落ち着かせる」ことに目を向けました。園内の訓練では、不審者にさすまたで立ち向かうのではなく、保育者は施錠やカーテンの閉鎖で園児の安全確保に専念します。これは、災害時に保育者が持つ技術を最大限に発揮できるようにするため。「保育者は絵本がなくても物語を語れる技術を持っている。不安を和らげられるのは大きな力」と、保育者ならではの役割を、新たな防災力として位置づけています。

災害時の応援協定を提供する(株)ニシハタシステムの西畑専務取締役(左)と山田園長(右)

地域一体で築く助け合いのつながり

 片岡地区では、地域全体の防災活動も活発です。区長をはじめ、地元住民や群馬大学の教授たちと協力し、「地域防災マップ」を作成しました。土砂災害や水害リスクの箇所、実際の避難経路などをわかりやすく可視化。「どのような状況になったら避難するか」を示すことで、まずは自分の身を守る“自助”を促し、次に声をかけ合う“互助”につなげることを目指しています。

 さらに、近隣の園に加え、高齢者施設や障害者支援施設、医療法人とも協定を結び、「何かあった時に連絡を取り合おう」という関係づくりを進めてきました。園や法人の枠を超えた取り組みは地元紙でも取り上げられました。

地域で連携する覚書と防災マップ
地域で連携する覚書と防災マップ

 こうした背景には、山田園長が過去の災害時に痛感した「情報の伝わらなさ」があります。近隣で事故や水害が起きても、地域によっては新聞報道で初めて知ることもあったとのこと。「災害の少ない地域だからこそ、被害にあった地域とつながり、助けに行きたい。そのためにも、まずは確実に連絡が取れることが大切」と山田園長は語ります。

気軽な“泣き言”届けられる体制

 この地域の取り組みを全国にも広げたいと、日本保育協会関東ブロックにて、2025年8月に株式会社ニシハタシステムと「災害時の応援協定 NS支援」を締結しました。これにより、災害時でも通信規制の影響を受けにくいIP無線機が、関東ブロックの各支部長に無償かつ迅速に提供されるしくみが整います。今後は災害発生時にIP無線機で各支部長が情報共有を行い、その情報をもとに各支部の事務局長、青年部長、女性部長を通じて、加盟園に情報が行き届く予定。災害時における法人の枠を超えた広域連携が構築されます。 

日本保育協会関東ブロックで協定締結
日本保育協会関東ブロックで協定締結
IP無線機。協定に基づき、災害時には団体にIP無線機が無償で提供される。

 「自分の園だけで災害対応を完結させるのは難しい。園同士が連携すれば、経験のある人が不足を補える。特に、被災した園が『困っている』という“泣き言”を気軽に発信できれば、その声が次の助けにつながる」と山田園長。IP無線機を活用することによって、災害時の“情報格差”を埋める効果も期待されています。

災害時の応援協定NS支援
社会福祉法人清水会 幼保連携型認定こども園片岡ナーサリー(群馬県)
社会福祉法人清水会 幼保連携型認定こども園片岡ナーサリー

園内の生活に避難行動を自然に取り入れている。防災訓練では地元の消防団の協力を得て、消防車や子ども用の法被・ヘルメットを用いた訓練を実施している。

執筆者
八木侑子

2・4面担当のパステルIT新聞編集スタッフ。ライティングだけでなくデザインも担当しています。

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