
この記事のポイント
- AI活用で業務の分断を防ぎ、保育の時間と質を守る
- 客観的なデータが、子どもの成長を多角的に理解する助けになる
- AIが、先生と子どもの幸せやウェルビーイングにつながる未来を描く
テクノロジーの力で途切れのない保育を
堀 保育ICTやAIを導入する前は、保育中に急遽、書類作成などの業務が発生した際に保育が分断され、結果として保育の質が落ちてしまうといった課題が散見されていました。感情労働の要素が強い保育の仕事では、急な時間の確保が難しかったり、本人にしかわからない部分があるため他者へのリレーが難しい。分断される時間を極力減らす必要性を感じていました。
土岐 時間を生み出すという観点ではAIへの期待は大きいですよね。2022年にChatGPTが登場し、世の中で生成AIが騒がれ始めた頃、私も一人の消費者として衝撃を受けました。堀さんの言うような保育者の業務を分断しない状況をつくる上で、AIが保育者のパートナー的存在になると直感しましたね。翌年には当社の保育ICT「ルクミー」に連絡帳やおたより作成をAIで支援する機能を追加しました。まだ生成AIは早いかと思いましたが、意外にも多くの先生が使ってくれました。
堀 当園でも保育ICTにAI機能が組み込まれることで業務におけるAI活用が加速度的に広がっています。書類作成も目的や要点を数行投げかけるだけで、AIが綺麗に文章化してくれる。顔認識機能による写真のばらつきチェックも写真販売にかかる時間の大幅な削減につながりました。あとは、子どもの成長の記録ですね。過去に記録した写真や連絡帳からAIがレポートをまとめてくれる機能も活用しています。
土岐 レポート機能は今年の3月に提供を開始して以来、先行利用園が500施設を超えました。
堀 実際に活用するにつれ、AIには時間の削減だけでなく保育の質に直結する付加価値があることがわかってきました。新たな主観に気づかせてくれ、子どもの姿を多元的な視点で捉えられるようになったんです。
土岐 AIによる発見のアシストですね。「3か月前はこうだった」「今は○○かもしれない」といった子どもの姿を過去の客観的なデータから導き出してくれる。それらに対し、保育者がどう主観的に意味付けするか。保育者の観察力・アセスメント力をAIが支援できるようになる。今まではこの客観を整理する時間がなかなか取れなかった。
堀 AIによって日常業務の中に振り返りの材料が散りばめられている。これは保育の質向上において大変効果的です。最近ではAIは思考や対話を生み出す“言葉の起点”になるのではないかと思い始めています。正直、AIに対する否定的な意見もはじめはゼロではなかった。ですが、ネクスト保育ではなくビヨンド保育をしようとしている。新しい価値を見つけるというマインドセットが大切だと思っています。

ウェルビーイング広がる世界をつくる
土岐 今後AIは人間が感知できない・処理できないような莫大なデータを学び始める。我々が描く保育AIの未来は、先生一人ひとりのパートナーを生むこと。先生がどんな主観を発揮し、子どもたちの好奇心をどう後押ししたか。保育者の専門性が可視化され、園と家庭で共有されていく。様々なデータが蓄積され、子ども自身も過去の自分に出会いながら未来を選ぶ時代が来る。子どもたちの“愛された記憶”が劇的に豊かになる。そうしたことを社会全体で進めたとき、子どもたちや保護者、保育者のウェルビーイングに近づける世界が訪れるのではないかと思います。
堀 まさに「こどもまんなか社会」。自分が愛されながら育った記憶を持つ人は強くしなやかです。そんな世界をつくる一助が生成AIなのかもしれません。
土岐 子どもたちの成長の物語には社会からの願いが含まれていると感じます。先生方が何十年と大事にされてきた保育観に時代が変わり偶然AIが出会った。
堀 土岐さんやユニファさんと出会うことで見通しがほんの少し先にあるような気がしています。ワクワクする社会はウキウキする子どもたちを育む。僕はそこに期待しています。
ユニファ株式会社|代表取締役CEO 土岐泰之氏
保育総合ICTサービス「ルクミー」を開発・提供。書類作成・写真管理などを支援する保育AI機能をリリースし、保育施設における生成AI活用の実証実験を実施している。
認定こども園さくら(栃木県)|堀昌浩園長
保育に向き合う時間を確保するため「ルクミー」を導入。ルクミーの保育AI機能に加え、議事録作成にAIツールを活用するなど日常業務におけるAI活用が浸透している。














