孤立した環境で子育てに戸惑う保護者、発達障害や虐待など特段の配慮を要する子どもたちの増加は社会問題のひとつです。保育士にはより専門的な判断や対処が求められる時代になりました。
「プロの保育」を追究する保育パワーアップ研究会では、筑波大学大学院の安梅勅江教授の研究室と連携し、過去12年間にわたるコホート研究(特定の人々を長期間調査し、その要因との関係を分析する)によって、子どもの健やかな成長に影響する要因と支援のあり方を科学的に分析してきました。全国36,000人の調査票を研究チームが専門的に分析して得た「科学的な根拠」は、保育士の速やかで適切な判断に活かされています。具体的には、「発達評価」「育児環境評価」「保育環境評価」「気になる子ども支援」「社会的スキル尺度」という5つのツールを用います。
昨年度からは、これらのツールをインターネット経由で園に提供するためのシステム開発が始まりました。利用者はIDとパスワードで守られたウェブページにアクセスして利用します。これにより、紙の調査票を扱うよりもスムーズに情報収集と分析ができます。セキュリティは、パソコン内部のハードディスクよりも高度な技術で守られた専用エリアに保管されるので、情報管理の安全性も高まります。
また、保育士の手間を極力省くよう、システムは設問に対する回答をクリックするだけの操作を基本としています。例えば、「社会的スキル尺度」では、「誰かが話をしたら顔を見る」「自分から友だちを手伝う」などの設問に対し、「いつも、時々、ない」のいずれかを指定します。「気になる子ども」では、「音に対する反応の異常」として、大きな音がしたときにその方向を向いたり驚いたりするか、回りの音に関心を示すかなどの設問項目に該当する場合のみクリックすればいいようになっています。
保育プロの心の拠り所を
膨大な情報を一瞬で分析し、それをわかりやすく示すのは、コンピュータが得意とすること。調査するたびに蓄積される子どもたちの発達データは、グラフで視覚的に認知できたり、園内平均や全国平均と比較できたり、特別支援が必要となる可能性をアラート表示で確認できたりします。
様々な実務に追われているため、子どもたち一人一人の詳細な情報を記録するのは大変な作業だと身構えてしまう保育者もいるかもしれません。しかし、「データが物語る『科学的根拠』と保育士が経験によって培ってきた『直感』を照らすことで、保育のプロとしての『心の拠り所』ができる」と安梅教授は語ります。そこには、これまでベテランが若手に伝えたくても伝えられなかった部分が含まれているかもしれません。それを保育者全員で共有することにも意義がありそうです。
保育パワーアップ研究会では、導入を希望する保育園、幼稚園、子ども園を筑波大学の研究チームと連携しながらサポートし、保育の質向上のネットワークを全国に広げたい考えです。