さまざまな職業分野で、その「専門性の向上」が求められる中、保育者にも社会の期待が集まっています。「保育者には、子育ち・子育て支援のプロとして、根拠に基づいた確実な実践を行って欲しい。」そう唱えるのは、筑波大学大学院、人間総合科学研究科教授の安梅勅江(あんめ・ときえ)氏です。安梅氏は「保育パワーアップ研究会」の中心的存在として保育のプロをめざす保育者を支援しています。これまでに「発達評価」「育児環境評価」「保育環境評価」などのツールを開発し、「科学的根拠」と「経験的根拠」を車の両輪とした子育ち・子育て支援の質向上に携わってきました。
きっかけは1998年、夜間保育や長時間(延長)保育が子どもの心身の発達に悪影響を及ぼすのかどうかについて、全国夜間保育園連盟とともに実態調査を始めたことでした。以来、全国3万人におよぶ子どもたちの発達に関するデータと保育者の経験から得られる情報に研究成果を関連づけ、質の高い保育を実践するために必要な「科学的根拠(よりどころ)」を体系化するに至りました。
「保育現場で得られる子どもの発達情報は、保護者に伝えるだけでなく、保健や医療などの他分野とも共有していくことが重要です。」と安梅氏。それは、子どもの健康・育児・教育など、数多くの社会的課題の解決にもつながる貴重な情報なのです。
分析と表現の工夫にIT 保護者会にて実践を
保育者のIT活用について安梅氏は「根拠に基づく保育を体得するためのトレーニングに役立つ」と語ります。「ITを使って日常生活の記録、蓄積した情報の分析、多彩な表現を用いた情報公開や共有ができます。例えば、保護者会や参観会の場で、資料や掲示物、スライドを使って保育活動や子どもたちの成長記録を紹介することがありますよね。そんな時、保護者から『子どもたちのこんなところにも気づいてくれていたのね。』とか『先生、さすが!』と言ってもらえるような充実した報告をしたいもの。パソコンは専門的な情報をわかりやすく伝えるための便利な道具として、保育者らしいアイディアで楽しく活用して欲しいと思います。」
子どもの成長を見守る保育者の瞳には、いつの時代にも変わらぬ優しさがあふれていますが、その瞳に映る子どもや保護者たちが様々な問題を抱える時代となりました。安梅氏は保育者の仕事を「子どもと保護者、社会のエンパワメント(力を引き出し、元気にすること)」と表現しています。子どもを、保護者を、そして社会を元気にするために。あなたの瞳は今、何を見つめていますか?
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安梅勅江(あんめ・ときえ)氏
筑波大学大学院 人間総合科学研究科教授。保健学博士。生涯発達ケア、地域
ケア、国際保健福祉マネジメントが専門。
国際保健福祉システム学会理事。日本保健福祉学会理事。
ワシントン大学子どもアセスメントインストラクター。