世界OMEP「ESDアワード2021」受賞 オンラインで異文化交流

 学校法人久光学園志のぶ幼稚園の岡秀樹園長は、幼児のグローバル感性を育むオンライン異文化交流に取り組み、2021年4月に日本人2人目となる世界OMEP「ESDアワード2021」を受賞しました。

 岡園長が受賞したESD(Education for Sustaninable Development)アワードとは、幼児教育・保育に関するユネスコの協力機関・世界OMEPが主催し、サステナブルな教育プログラムを表彰するアワードです。

 未だ終息の兆しが見えないコロナ禍において、どのような状況でも持続的に質の高い幼児教育を提供することは一層重要なテーマになりました。そうした中、世界から注目を集めた志のぶ幼稚園の取り組みは、コロナ禍においてもサステナブルにグローバルな感性を育むものでした。

 2020年夏、岡園長は異文化交流ができるオンラインプログラムを民間企業と共同企画。国境を超えたオンライン交流プログラムを企画運営する㈱シンクアロットと、グローバルネットワークを活かしたオンライン英会話レッスンを提供する㈱ぐんぐんとの協働で取り組みをスタートしました。現地と園をつなぐのに使用するツールはオンライン会議ツール「Zoom」。現地にファシリテータ兼通訳がいるため、保育者が英語を学ぶ必要はありません(スクリーンやプロジェクターはレンタルも可能)。
 

「いつもの夏休みなら、海に行ったり旅行に行ったりできるのに、それができない。どうにかして子どもたちにわくわくする経験をさせてあげたかった」

 同プログラムは長期休みの預かり保育期間に特別カリキュラムとして実施し、満3歳から年長児約50名が参加。8月にフィリピン、12月にニュージーランドの子どもたちと園児をオンラインでつなぎ、互いの国の文化や遊びを伝え合いました。

 フィリピンの回では、バナナの木や葉を現物や写真で見せてもらったり、現地のマーケットの様子を生中継で見せてもらったり、ティニクリン(バンブーダンス)を一緒に楽しんだり。同園からは園児の間でも流行っていた「けんけんぱ」や園で伝統的に踊っている「たけのこ体操」を紹介しました。

 続くニュージーランドの回では開催前にクイズを作成し、YouTubeで家庭に向けて配信。園児が興味をもって、ニュージーランドの子どもたちと交流できるよう工夫したそうです。

「(教えてもらった)バナナケチャップが家にあると持ってきてくれる子がいたり国旗を描いてきてくれる子がいたり、家に帰った後も話題にしてくれていた。その時に初めて〝ESDの実践〟を意識しはじめた」

世界OMEP「ESDアワード2021」を受賞した志のぶ幼稚園の岡園長

 

主体的・対話的な学びから、さまざまな問題を「自分の問題」として捉えていく

 そもそもESDとは、持続可能な社会を創造する担い手を育む教育のこと。主体的・対話的な学びから、さまざまな問題を「自分の問題」として捉え、行動する力を育むというものです。SDGsの目標4(質の高い教育をみんなに)の実現にも欠かせない考え方の1つです。

 「英語を学ぶにしても、〝何のために学ぶのか〟。『この子たちとお話をしたい』『この子たちにお手紙を書きたい』。そういった原点は〝人と人とのつながり〟にあるものだと思う。それがESDの実践や将来的にグローバル市民の育成につながっていく」

 一方で、ESDという考え方は、まだまだ幼児教育に浸透していないのが実情。ESDの実践を支援するNGO開発教育協会の評議員を務める岡園長によると、ESDは教えるのではなく、ESDという考え方を保育者が理解し、それを意識した保育を実践することが大切とのこと。そうした意味でも、今回のプログラムは保育者にとっても貴重な体験になったようです。

 例えば、海外の子どもたちに日本や自園の何を伝えるか。「知りたい」という知識欲に走ってしまうと、自分たちには何があるのか、何を伝えられるかが置き去りになってしまうもの。アイデンティティを考えるきっかけになったそうです。

 

職員研修にも活用 海外とリアルタイムにつながる魅力

 さらに、海外施設との接続テストの機会を幼児教育の考え方や実践について学び合う職員研修に活用。

 「本でもなく、そこへ行ってきた人の話でもなく、そこで働いている人の話を聞ける。ラーニング・ストーリーを見せてもらえる。この効果はとても大きい。世界の保育の考え方や違いを知る、まさに生きた研修になった」と岡園長は教えてくれました。

 登降園管理や要録作成など、職員の負担軽減にICTが活用されるケースが多い中、コロナ禍はオンライン保育によって園と家庭をつなぐといった新たな活用が加速しました。同園の今回の取り組みは、そういったオンラインの可能性をさらに広げるものでした。

 「幼児期に海外の子どもたちとリアルタイムにつながることができる。魅力を感じていただけるのであればぜひ体験してほしい」

 同園は今年8月にケニアの子どもたちとの交流を予定。11月の創立110周年記念式典ではフィリピンの子どもたちとのコラボレーションを計画中です。

学校法人久光学園 志のぶ幼稚園(東京都目黒区)

都立大学駅・大岡山駅近くにある、創立明治44年から100年以上続く歴史ある幼稚園。在園児の約15%が海外にルーツを持つ。多文化共生に積極的に取り組み、2021年に創立110周年を迎える。
https://www.shinobu-kg.com/
 

【参加者募集中!】取材アフタートークを開催します!

  • そもそもオンラインでの異文化交流をどのようにして実現したのか
  • なぜESDについて取り組もうと思ったのか
  • ESDと幼児教育の関係性
  • 園で実践するにはどうしたらよいか

今回の取材アフタートークでは、紙面のおさらいをしながらも、紙面では伝えきれなかった内容をお届けします。
取材で伺った岡先生の「サステナビリティ」「ブッキング」という考え方は、まるで閉じた思考が拓いていくような感覚がありました。
大人もわくわくする岡先生の話を、Zoomで直接聞ける場です。ぜひお気軽にご参加ください。

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執筆者
服部由実

編集長。企画・取材を担当。IT企業の広報部門に所属し、社外広報や採用活動に取り組んでいます。

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