ITの力で幼児教育の質を高める研究会を開催 保育者の管理業務ゼロに

(右上)iPod touchで子どもの様子を撮影 (右下)園長の井内聖先生 (左上)IT企業と登降園システムを開発 (左下)乗馬など自然体験も豊富
年間100名もの保育関係者が視察に訪れるはやきた子ども園。2018年8月の公開研究会は、140名を超える参加者で賑わいました。同園独自の幼児教育やITを活用した業務改善を取材しました。

「保育者の仕事で、管理の仕事が最も時間と手間をとられる。『先生方の仕事を減らしたい』と考えたとき、方法は2つ。行事などの大きな仕事を減らすか、管理をやめるか。ぼくはITの力で『管理業務をゼロにする』ことを目標にした」。そう語るのは、井内聖園長です。

井内園長は、管理業務を徹底的に分析。その情報を道内外のIT企業と共有しながら理想に叶うシステムの導入を目指しました。そして、登降園管理には「PiPit登園」、職員間の情報共有には「nanoty」、保護者との連絡帳・写真共有には「Kidsly」などのシステムを目的別に導入しました。職員にはiPod touchを支給。園児の出欠状況をはじめ、必要な情報をスマートにチェックできるようにしました。職員室は30キロ離れた系列園と無料のビデオ会議システムで24時間接続。保育日誌や職員会議の議事録もインターネット上で共有。これにより職員間や保護者との情報共有が円滑になりました。さらに、出席簿作成の自動化、議事録・保育日誌のペーパーレス化、管理に費やす時間やコスト削減に成功し、職員がより専門性のある教育・保育を実践する時間を得ました。

「大切なのは想い。想いを共有するために文字があり、残す媒体のひとつに紙がある。そして、音声認証の精度が急激に向上しているように、IT革命によって時代はさらに進化している。教育・保育の現場は、両手をフリーにさせながら職員同士の連携や記録も必要。音声の文字化は、園にとって夢のシステム。『先生の仕事を楽にしたい』という園の想いとITは常に合致する」と井内園長。

夢のシステムだと思っていることも、近い将来には現実のものとなりそうです。

はやきた子ども園が導入しているITツールを一部紹介

■PiPit登園
はやきた子ども園が、保育園とこども園のICT補助金(合計200万)を活用し、札幌市のIT企業と開発した登園システム。保護者はiPadの画面から名字の頭文字を入力し、子どもの名前を選択。「送り」または「迎え」を選び、登降園状況を登録します。職員はスマホから出欠状況をすぐに把握でき、未登録一覧から欠席の子どもたちを確認。「風邪」「出席停止」など欠席理由を一括登録することができます。出席簿もエクセルで自動作成されるため、出席簿作成にかかる作業や書類の整理・管理の必要もありません。要録作成もでき、子どもたち一人ひとりの成長や特徴も入力可能。

 

園向け情報共有サービス「nanoty」
職員会議などの議事録や職員同士の情報共有に活用しているものが、「nanoty」です。紙での管理は一切なく、担任の先生・パートの先生・臨時職員の先生〝全員〟がnanotyで情報共有。「担任の先生とパートの先生で情報共有のタイムラグが生じてしまう」「職員会議の内容や研修の案内など、きちんとパートの先生にまで行き届いているか」という課題を解消し、職員全員の意識をひとつにまとめることができます。職員会議の内容はnanotyに記録し、必要なときはキーワード検索ですぐに知りたい情報にアクセスすることができます。

 

■連絡帳・クラスフォトアプリ「キッズリー」
日案はすべて「Kidsly」で作成。アプリ内のクラスフォトに撮影した写真がすべて保存され、iPod touchから印刷したい写真を選択。「今日やったこと」をメッセージカードに書き、写真と一緒にエントランスに掲示します。子どもを迎えに来た保護者が子どもの様子を知ることができたり、バス送迎のために掲示物を見ることのできない保護者は同アプリから確認することができます。月に一度のクラスだよりや、保護者との個別連絡も同アプリを活用。同園では「保育日誌」として監査も通り、職員からも「楽になった」「写真の撮り方を意識するようになった」と好評です。

 

■保育料の支払いは電子マネー
同園では保育料の支払いはすべて電子マネー決済。以前は保護者から現金を受け取ると、その後、担任の先生から事務の先生に渡していました。しかし、新制度になり、園の事務の仕事は急増。電子マネーであれば、保護者は金額を入力してカードをかざすだけ。事務の先生が不在でも、職員であれば対応できます。同園では、電子マネーを使ったことがないという保護者向けに、入園時のnanacoカード配布を検討中。例えば、入園手数料2000円を徴収し、nanacoにチャージした状態で配布することで、電子マネーの園内普及を図ります。

生活と遊びを中心とした保育

森はもうひとつの教室

公開保育では、園内や近くの森で遊ぶ子どもたちの様子が披露されました。園内には薪ストーブとオーブンが設置されています。薪は歩いて5分の森で調達したもの。子どもたちは森の木で暖をとれることや、パンが焼けることを自然に学んでいきます。

同園の幼児教育では、日常生活の中に学びが循環していることを子どもたちに伝えています。「遊んでいるように見えて学校教育につながるような幼児教育を提供する。大切なのは保育者が教えるのではなく、体験によって子どもの主体的な学びを引き出すこと」。井内園長はそう語ります。

はやきた子ども園

執筆者
服部由実

編集長。企画・取材を担当。IT企業の広報部門に所属し、社外広報や採用活動に取り組んでいます。

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